HOME受賞作品展情報エンターテインメント部門優秀賞

エンターテインメント部門

優秀賞

スポーツタイムマシン

メディアインスタレーション

犬飼 博士/安藤 僚子(日本)

作品概要

本作は、壁に投影される昔の記録と実際に「かけっこ」できる装置で、「山口情報芸術センター[YCAM]10周年記念祭」をきっかけに誕生した世界で最初の“スポーツのタイムマシン”である。過去の自分や、家族、友達、動物の走った記録に挑戦でき、自身の走った記録は3Dデータで同時に保存される。「走る」という行為が思い出だけでなく、メディアとして存在し続けることの面白さに着目した本作は、スポーツを通じて、過去、現在、未来を横断した身体コミュニケーションを提供する。山口市の多くの市民の協力のもと、商店街の中に設置され、展示期間中は「大メディア運動会」と称した祭りやワークショップを開催。多くの笑顔を生みだした。また、市民が自ら長期的に活用する方法を考える会議を開き、ウェブサイトなどの機能拡張も続けられている。2020年の東京オリンピック開催を見据え、継続的に活動を展開している。

贈賞理由

2013年の夏、山口市の商店街に『スポーツタイムマシン』はあった。そこに集まったみんなが全力疾走していた。私たちの日々の暮らしで「走る」ことは抑制されている。そのためこの行為がもたらす原始的な快楽は忘れがちだ。その代替か、アクションゲームの中で私たちは走る。Bボタンダッシュの感覚は身体レベルに刷り込まれている。このズレを『スポーツタイムマシン』はゲームキャラクターとプレイヤーを等身大にすることで解消した。また、プレイヤーの運動データは壁面に「影」として投影される。多くの「かつて走った影」を眺めていると、1960年代の高松次郎の絵画作品が想起され、そしてこの連想は「原爆の影」に行き着く。原子爆弾とコンピューターゲームの誕生は科学技術の歴史において表裏の関係だった。こうした文脈が折り重なるフィールドをプレイヤーたちは全力で走り抜けていく。汗をかいて大笑いしながら。その屈託のなさが美しい。(飯田 和敏)

犬飼 博士 INUKAI Hiroshi

1970年、愛知県生まれ、eスポーツプロデューサー、ゲーム監督。つながりと笑顔を生むツールとして、ゲームとスポーツに着目。 スポーツとITを融合した作品発表、大会運営等を手がける。 現代的なスポーツマンシップとしてスペースマンシップを提唱。 人工知能を巻き込んだ次世代の「遊び」を研究開発中。

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安藤 僚子 ANDO Ryoko

1976年、東京都生まれ。山形育ち、インテリアデザイナー。2009年、デザインムジカ設立。ファッションや飲食のショップデザインを中心にエキシビションスペースの制作、ショップディスプレイ、ブランドCI・VIのディレクションなど手がける。ハンドメイドで遊び心のあるデザインを得意とする。

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トラヴィス「ムーヴィング」

ミュージックビデオ

Tom WRIGGLESWORTH / Matt ROBINSON(英国)

作品概要

イギリスのバンド「トラヴィス」のシングル「ムーヴィング」のミュージックビデオ。息が白く見える低い気温の中で、バンドメンバーが歌う息に、プロジェクターでアニメーションを投影し、撮影されている。彼らの初期作品「Love is in the Air」で試みた技術を応用した、特殊技術を使わないカメラの撮影というアナログな手法で、ヴィジュアル・エフェクトのような効果を生み出すことに成功している。アニメーションは、それぞれのバージョンで息をしては微調整を繰り返し、最も鮮明な映像を求めて何百ものバリエーションを試作しながら数週間かけてじっくりと作成された。本作の撮影は、人工的に氷点下にまで冷やされたスタジオの中で複数のプロジェクターを用いて行い、そこにはバンドメンバーを暖めるためにたっぷりの熱いお茶も用意された。

贈賞理由

今年もいわゆる「プロジェクション」作品が数多く応募された。規模感や先端感を前面に打ち出し、高出力のプロジェクターによってモノや空間をパワフルに「上書き」しようとする作品が多数を占める中、寒い空間でひっそりと吐かれた白い息に小さなアニメーションが儚げに投影されている様子を淡々と観察する本作品は異彩を放っていた。投影されるアニメーションはそのどれもがシンプルで最小限であるが、そのすべてのアイデアは、人が息を吐くという行為や白い外気の移ろいという、この状況自体の豊かさを引き出すことに捧げられている。モニターやスクリーンといった抽象平面により我々の日常がますます包囲されつつある今、より身近に感じるモノや空間、場所に回帰し、これらをメディアとすることで新たな関係を結びたい、といった意思が、昨今の「プロジェクション」の流行の背景にあるとすれば、本作品はまさにそういった思いの中心を射抜いている。(中村 勇吾)

Tom WRIGGLESWORTH / Matt ROBINSON

Tom WRIGGLESWORTHとMatt ROBINSONは、監督・クリエイターとしてロンドンを拠点に活動している。

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プラモデルによる空想具現化

ジオラマ、ガジェット

池内 啓人(日本)

作品概要

本作は「プラモデルによる空想具現化」をテーマに、パソコンを始めその周辺機器をプラモデルを用いて改造し、ジオラマを作ることで、誰もが一度は空想するであろう世界を創りだしたものだ。個人の記憶を保存する建物としてのパソコンは、その記憶を守るための要塞基地として、縦横無尽に動きまわるマウスは防衛用の戦車として、本来の形状や使われ方に着想を得た具現化を施され、そのものが持つ特色や可能性が浮き彫りにされている。改造されたパソコンや周辺機器は、世界観を演出する建造物や風景として造形し直されているものの、機器を構成する電子回路や配線、機構などは破損されずに保たれており、そのまま使用することが可能である。

贈賞理由

エンターテインメント部門には、毎年数多くのフィギュアやジオラマが応募されてくるが、その中でも質量共に群を抜いていた作品である。とはいえこの作品は単に、プロモデルをベースにした「すばらしく精巧な、ものすごく巨大なジオマ」にはとどまらない。池内のジオラマには、どこにでもある普通のデスクトップPCやUSBメモリなどの日常のガジェットが、すべてそのまま動いたり使えたりするかたちで含まれている。ミニチュアとリアルの2つのスケールや、有用と無用が混在しているだけでも、さまざまな妄想が刺激されるが、それもまた本作の意義のほんの一部にしかすぎない。「形態は機能にしたがう」だとか「機能と形態の両立」などというから、世の中のデザインはつまらなくなる。機能やコンセプトなんてどうだって良くなるような形態をつくることこそがデザイナーの本分であり、この作品はそのことを改めて主張してくれる。何といっても遠くから双眼鏡で眺めると、また格別なのだ。(久保田 晃弘)

池内 啓人 IKEUCHI Hiroto

1990年生まれ。2013年、多摩美術大学情報デザイン学科卒業。大学でデザインを学ぶ傍ら、他の時間の大半をプラモデルの制作をして過ごす。卒業制作にあたり、自分の最も身近な存在であったコンピュータの内部が秘密基地に見えるという着想から、プラモデルを組み合わせたハイブリッド・ジオラマを制作し発表した。

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燃える仏像人間

劇メーション

宇治茶(日本)

作品概要

本作は原始的なアニメーション手法ではあるものの、単純ゆえに自由な表現が可能な“劇メーション”と呼ばれる映像表現で構成され、劇中でさまざまなエフェクトが試されている。物語は京都で相次ぐ謎の仏像盗難事件が舞台。女子高生「紅子」は実家である寺の仏像を盗まれ、その上に両親までも惨殺され、天涯孤独の身となる。身寄りの無い彼女は両親の旧友である僧侶「円汁」の寺に引き取られる。そこで彼女は両親と仏像が融合したかのような醜い仏像人間と遭遇する……。ストーリーの中で、映画の冒頭と終盤には実写シーンも挿入され、主人公「紅子」を演じる井口裕香が怪しい劇メーションの世界へと誘う。作品のテーマは“融合”。仏像と人間が融合する奇想天外なストーリーを通じて、「紅子」の成長と淡い恋を描きだす。怪奇性が強い作品であるが、芸人の「桜稲垣早希」が歌う主題歌は「紅子」の気持ちを明るく歌い上げる。

贈賞理由

『燃える仏像人間』はアニメーションの技法のひとつ、リミテッド・アニメーションの最果てである“劇メーション”という難儀な手法で制作されている。“劇メーション”とは、1976年のテレビアニメ『妖怪伝 猫目小僧』で強引に実験された、劇画とアニメーションの融合だ。切り絵と特殊効果による「激ロウ・バジェット(小規模予算)」なその流儀は、アニメーションの基礎である「連続した静止画像の連なり」をも放棄せざるを得なかった日本アニメ界のトラウマなのだ。このトラウマを克服するかの如く、人間と仏像の「融合生命体」を描いた本作には、無菌状態のテクノロジー至上主義をあざ笑うかのように、手垢と怨念がアニマとして焼き付いている。絵の具と紙が今世紀においても最も有効なテクノロジーのひとつであり、果敢く愛おしいピュア・メディアなのだという事実を我々はこの作品から突きつけられるのである。 (宇川 直宏)

宇治茶

1986年、京都府生まれ。2009年京都嵯峨芸術大学卒業。2013年映画『燃える仏像人間』を監督し、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭「フォアキャスト部門」に出品。また、チョンジュ国際映画祭、ドイツ・フランクフルト、ニッポンコネクション映画祭に正式招待される。

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