20回 マンガ部門 講評

20回めにふさわしい収穫の年でした

返り咲きなのか引き戻しなのかよくわからないまま、3年ぶりに二度めの審査委員を務めることと相成り、この受賞作品集が発行される頃には私は70代に突入する。一度めの頃は机上にうず高く積まれた「紙マンガ」の候補作と格闘したのだが、二度めの今回はデジタル化された作品群を「画面」で読み、多少の狼狽と便利さと「with the time」時の流れにどこまで誤差なく付いていけるか、1本読み終えるごとに考えざるを得なくなった。これまで先人たちが工夫開拓してきた「1ページ単位(あるいは見開き単位)の構図、構成」を継承せねばならぬ理由は、明らかに意味を失いつつある。ヨコなりタテなりのスクロール方式はそれなりに「心地よさ」を感じさせてくれるが、それは文字通りの「流し読み」となるおそれがあり、および振りかえってみれば、皮肉にもこれは平安時代からの日本文化「絵巻物」に先祖帰りしようとしているのではないか、という奇妙な感慨にも包まれたのである。さて今回は審査を終え、634の応募数にふさわしく、傑作・力作・問題作・異色作の集まった「豊麗の年」になったと思われる。一言で言えば「どれも落とせない」辛さをまたも味わったのである。私が一番衝撃を受けたのが武田一義『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』で、冒頭のテンポとキャラの軽さを甘く見たのが間違いで、戦場の恐怖と迫力、重いテーマを「この画風で、ここまで真剣克明に訴えられるのか」と感服した。過去に受賞した、おざわゆき『凍りの掌 シベリア抑留記』とはまた別の感動である。そして、画風もテーマも重い筒井哲也『有害都市』はけっして「反プロパガンダ・プロパガンダ漫画」などではなく、「本を焼く者はやがて人間も焼く」と喝破したハイネの哲学を継承する圧巻の書である。さらに、最もマンガの自由さを感じたネルノダイスキ『であいがしら』、アールデコ、モボモガの洪水に浸るマツオヒロミ『百貨店ワルツ』、作家として見事にバケた吉本浩二『淋しいのはアンタだけじゃない』、そのほか書き切れない多くの傑作が今回のメディア芸術祭に結集した。

プロフィール
みなもと 太郎
漫画家/マンガ研究家
1947年、京都府生まれ。67年、デビュー。ギャグとシリアスが混在した作風で人気を博す。2004年、歴史マンガの新境地開拓とマンガ文化への貢献により、第8回手塚治虫文化賞特別賞受賞。平成22年度[第14回]メディア芸術祭優秀賞受賞。代表作に『風雲児たち』シリーズ、『ホモホモ7』『挑戦者たち』のほか、『ドン・キホーテ』『レ・ミゼラブル』などの世界名作シリーズがある。