8回 エンターテインメント部門 講評

コロンブスの卵的な「発想の転換」を高く評価した

「エンターテインメント部門」の大賞は「ゲーム作品」の中から選ばれた。今やわが国で最も時間と予算を費やして作られているコンテンツと言っても過言ではないであろうゲームソフト。だが大賞の『まわるメイドインワリオ』はいわゆる巨大作ではない。ゲームの楽しみ方の前提を覆す、コロンブスの卵的な発想の転換が高く評価されたことは大変意味があると思う。また、優秀賞の『ピクトチャット』も当初ゲーム作品として評価されていたが、この面白さは「新技術にささえられた新しい遊びの提案」であり、むしろ「遊具」としてその「アイディア」を評価した。「映像作品」には今年多くのCM作品が寄せられ、そのうち1本が優秀賞に選ばれている。これは「文化」や「芸術」とはあまり縁のないものと、とらえられていた感のあるテレビ CMにとっては画期的なことである。そのほとんどがCGやデジタル技術を駆使した表現であるが、これらの映像新技術のもとにおいては「CM」「本編」などという分類にはもはや意味がなくなってきていることを示している。一方で今ひとつ盛り上がりにかけていたのが「Web作品」である。膨大な手間と予算をかけて作られているものも少なくないが、インターネット10年といわれる節目にあって、今後を占う新しい提案性を示すものにめぐり会えなかったのは大変残念なことである。メディアとしての地位が確立されつつある中、今後この分野で意欲作が出てくることを強く期待したい。個人作品で奨励賞をとった『あかね雲』は、「人間の心に訴えかけ共感を呼び感動を与える作品であれば、それは立派なエンターテインメントである」ということを示す重要な作品である。それは巨大資本のバックアップによって送り出されてきている作品がひしめいている「エンターテインメント部門」において、忘れてはならない本質をわれわれに見せつけるものであり、個人的にはこの作品に出会えて、審査委員各位の評価を受けたことが大変嬉しかった。

プロフィール
中島 信也
CMディレクター
1959年、福岡県生まれ。年間40本近くのCMの演出を手がける一方で、株式会社東北新社取締役、多摩美術大学教授を務める。デジタル技術を駆使した娯楽性の高いCMで数々の賞を受賞。主な作品に日清カップヌードル『hungry?』(カンヌ広告祭グランプリ)、サントリーDAKARA『小便小僧』、 HONDA『STEP WGN』、サントリー『伊右衛門』など。