9回 アート部門 講評

【作品カテゴリ別講評】映像

今年の応募作品は、全体的なレベル向上と手法の多様化が目立った。映像制作をサポートするソフトの高性能化・低価格化で、絵画や写真などの分野で自分の作風をもっている作家たちが、動く映像を積極的につくり始めたのだろう。墨絵や銅版画、粘土などのアナログな風合いを生かしたアニメーションや、写真を自在に使いこなして時間と空間を再構成する作品など、従来の映像のカテゴリーの枠にはまらない闊達な表現が魅力的である。シンプルな線描風の作品の増加は、超リアルCGの普及が、逆にスタイライズされた表現への関心を呼び覚ました昨今の動向の反映だろうか。一方で残念なのは、プログラミングやシミュレーション、3D-CGの可能性を追求した作品が少なかったことだ。アナログ表現が培ってきた豊かな表現にデジタル表現を引き寄せるだけでなく、デジタルであることの意味を鋭く追求することが、これからの映像表現をさらに豊かなものにしていくはずだ。

プロフィール
草原 真知子
早稲田大学教授
1980年代前半からメディアアートのキュレーションと批評、メディア論研究で国際的に活動。筑波科学博、名古屋デザイン博、神戸夢博、NTT/ICCなどの展示のほか、SIGGRAPH、Ars Electronica、ISEAなど多くの国際公募展の審査に関わる。講演、著作多数。デジタルメディア技術と芸術、文化、社会との相関関係が研究テーマ。UCLA芸術学部客員教授。工学博士。