25回 マンガ部門 講評

時代の真っただなか で魅せる 良い「切り口」とは

マンガの裾野の広がりを感じる。技法が時代によってどんどん変化してゆくのはマンガに限らず多くの表現、芸術作品がそうなのだろうが、表現の頂上に向かって突き進んでいると感じるものもあればこんな身近な題材がテーマで成り立つのだと感じるものも多かった。
50年ほど前、週刊誌が有名マンガ家だけで埋め尽くされていた時代には「このような描き方ができないとプロになれない」という切羽詰まった気持ちで「このなかに入れる才能も実力も自分にはない」と絶望的な気持ちになった。今はテーマ的にも表現方法でもさまざまなアプローチの方法があって、作品を発表するのに親切な時代になっている。また参考になる作品も探しきれないほどあふれている。過去のヒット作を追体験しようとするといくらでも果てしなく存在する。言ってしまえば「新しい作品がなくとも一生マンガを読んでいられる」世界に私たちはいる。
なのにそのなかで、やはり「この時代ゆえの新しい作品」が必要なのだ。マンガは旬であるかどうかがとても重要視されるジャンルで、どれだけ今という時代を切り取れるかにかかっているところがある。
文化庁メディア芸術祭で審査する作品は「どの読者層、どの年齢の読者に向けた作品か」がはっきりとしないので評価するスタンスに苦労するが、その分応募作品のテーマの多彩さは想像をはるかに超えてゆく。絵の力で圧倒してくる作品、どこにその需要があるのかと思わせるのにしっかりとした取材がされていて頭の下がるもの、現実のやるせない実情を淡々と描いてゆくもの、読む者の気持ちを良くしてくれる実在してほしいフィクション、そのどれもがいかに「今」を切り取ったかという新鮮な時代の切り口が作品にとって重要であり、今回もさまざまなものを見せていただいた。良い切り口を見せるには積み重ねた技術と一瞬の覚悟、そしてやはり「人を生かす優しさ」が必要不可欠だと思う。

プロフィール
島本 和彦
マンガ家/株式会社アイビック代表取締役社長
北海道中川郡池田町出身、北海道札幌市在住。本名は手塚秀彦。1982年『必殺の転校生』にてデビュー、代表作に『炎の転校生』、『逆境ナイン』、『燃えよペン』、『吼えろペン』、『超級! 機動武闘伝Gガンダム』、『アニメ店長』など。現在『アオイホノオ』、『ヒーローカンパニー』を連載中。『アオイホノオ』で第60回小学館漫画賞一般向け部門、第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。株式会社アイビック代表取締役社長も務める。