24回 エンターテインメント部門 講評

メディア芸術は不要不急なのか

今年は特別な審査となった。コロナ禍のなかでメディア芸術とは不要不急なのかどうかを深く考えさせられた。実際、良くも悪くも影響を受けた作品が多数集まった。人と人がつながり合えない今だからこそ、メディアを通して前に進んでいこうという気持ちが強い尊いものが多かった。こんな時代だからこそ手触りのある、我々のディスタンスを埋めてくれるものが生まれたのだろう。メディア芸術を通して、誰かの役に立ちたいと立ち上がる作品もあれば、真逆にこんなときだからこそ現実逃避させてくれるぐらいに没頭できるクオリティの高いアート性のある作品まで幅が広く、これからの可能性を存分に期待させてくれた。特に私が大切にしたのはテクニカルな部分を忘れさせてくれるくらいにハートのある手技を見出すことだった。大賞の『音楽』は一枚一枚すべて手描きで膨大な時間をかけ愛と情熱が注がれた、まさにロックな作品だ。ここまで人を震わせることができたのは圧倒的な手づくりだからだ。今回の受賞作はどれもつくり手の気持ちと制作過程が熱い。やはりこれだけ時代が変わっていくなかで、一番に進化するのは「人間」であってほしい。人は人を必要とする。作品が人間に寄り添い、力を超え、導いてくれる限り人はメディア芸術をも必要とすることだろう。今年は、作品とともに忘れられない年となった。

プロフィール
森本 千絵
日本
コミュニケーションディレクター、アートディレクター。武蔵野美術大学客員教授。1999年武蔵野美術大学卒業後、博報堂入社。2006年史上最年少でADC会員となる。07年「出逢いを発明する。夢をカタチにし、人をつなげていく。」をモットーに株式会社goen°を設立。 NHK大河ドラマ『江』、 朝の連続テレビ小説『てっぱん』のタイトルワーク、『半分、青い。』のポスターデザインをはじめ、Canon、KIRIの企業広告や松任谷由実、Mr.Childrenのアートワーク、映画や舞台の美術、動物園や保育園の空間ディレクションなど活動は多岐に渡る。二子玉川ライズクリスマス2018「Merry Tick Tock」プロデュース、キネコ国際映画祭アーティスティック・ディレクター兼、審査委員長を務める。