19回 アニメーション部門 講評

人生そのものが表現する者にとっての財産

『Rhizome』は地球に存在している生態系の縮図を見事に描いた作品である。
表現者は、文化、哲学、生物、関係性などから作品の世界観を考えるが、本作では短いなかにそれらすべてが入っている。評価すべきはキャラクターがアナログ手法で描かれていることだ。とてもかわいらしい。キャラクターと生態系の秩序が生まれる箇所に、プログラミングされたアルゴリズムが取り入れられており、アナログとデジタルのバランスが上手く融合している。8Kで見てみたい作品である。
『花とアリス殺人事件』は実写を取り入れることによって、「人が喋っている間合いや空気感」までもアニメーションに取り入れられているところにおもしろさがある。オリジナリティのあるレイアウト、キャラクターをとらえる角度が特長的であるのに加え、アニメーターが従来は描かない(描きたくない)箇所がこの作品では描かれており、実写を取り入れる意義を感じられる。アニメーターは後学のためにも本作を参考にしてみて欲しい。

『Yùl and the Snake』は『花とアリス殺人事件』と同じように、実写撮影をアニメーション化した作品であるが、この作品は『花とアリス』よりもさらにキャラクターが"デフォルメ"されており、そこには絵描きとしての技術力、個性がないと表現できない魅力を感じられる。また、本作は生理的な生々しさがあり、演出力でも一線を越えている。新人賞の『台風のノルダ』はシナリオ演出が活躍できるとよかった。動きに必要性としての軸がないと振り回されてしまう。動きの目的が明確だとさらに良い作品になるだろう。
総評として、表現は革新的であるにこしたことはないが、アニメーション分野では躍動感やシズル感そのものが作品に生命を吹き込む。生命力と同時に、えぐみの強い、目を背けたくなるようなひりつく傷み。皮膚感とも呼ぶが、見聞きしただけではけっして描けない個人の体験、人生こそが表現する者にとっての財産でありオリジナリティに繋がると信じている。

プロフィール
森本 晃司
1959年、和歌山県生まれ。『AKIRA』の作画監督補佐などを経て、監督代表作に『MEMORIES「彼女の想いで」』『EXTRA』『アニマトリックス』『次元爆弾』『SHORT PEACE』のオープニングなど。『次元爆弾』は2011年にパリ・カルティエ財団現代美術館で開催された「メビウス─トランスフォーム展」にて特別上映、「Little Tokyo Design week」(ロサンゼルス)でも展示上映された。11年にフランスのインタラクティブWEB広告『Attraction/魅力』でカンヌ・インターナショナル・クリエィティビィティ・フェスティバルにてサイバー部門銀賞を受賞。13年LEXUS社とハリウッドのワインスタイン・カンパニー社によって制作された『LEXUS SHORT FILMS』の作品「A Better Tomorrow」のアニメーションパートに監督として参加。第66回カンヌ国際映画祭にてワールドプレミアでリリースされた。同年初の舞台演出として『羊人間012』の脚本/演出を務める。14年、世界的に活躍する、インストゥルメンタル・ポストロックバンド『MONO』の新譜の15秒ティーザーを監督した。