17回 マンガ部門 講評

変化の潮流の中に垣間見えるマンガのパワー

文化庁メディア芸術祭の審査委員を引き受けてわずか3年の間に、紙媒体でない携帯端末、ブログなどのネット配信マンガが大幅に増えて高齢の私をまごつかせた。それらは年々、マンガとしての発想までがさまざまな広がりを見せ、「果たしてマンガと呼ぶべきか、アニメーションの範疇に入れるべきでは......」といった、ボーダーレス化が勢い良く進行中であるという印象を持った。一方でこれまで通りの紙マンガも決して衰えることはなく、候補作はますます増えて、今年はついに最終審査直前まで読み切れず、私ももはや半分責任感半分意地で、銀座にあるメディア芸術祭の事務局に3日間通いつめて、ようやく全作品に目を通すことができた。これは私の年齢もあろうが、審査委員一人ひとりが候補作全部を見渡すことが限界に近づいているような気もするし、今後の課題でもあると思われた。それら膨大な作品群は、ジャンル的にはありとあらゆる職業や属性がトリビア的にマンガ化されており、" 学園もの"もかつては「野球部」くらいしかマンガにならなかったのだが、今や百花繚乱、書道であろうが茶道であろうが、どんな地味なクラブ活動でも臆すことなく描かれていく。ただ、それら多くの少年少女主人公はややブキッチョで、未開拓の才能が光り、いくつかのハードルを越えて成長し、ライバルが現れ、何らかの晴れ舞台に臨む......。そう、ビンボー臭さも無くなり、オシャレな展開を見せつつも、昭和『巨人の星』の目先を変えた21世紀版である場合が多く、「変わっていない部分は案外変わっていないのだな」という感慨も味わった。無論、それらと一線を画した新ジャンル、新感覚の作品も負けず劣らず数多く、紙数もないので賞を逸した作品だけから述べると、『巨人の星』ではない野球モノ『高校球児ザワさん』(三島衛理子)、コミカルだが真剣に啓蒙している『アステロイド・マイナーズ』(あさりよしとお)、文学界がショックを受けそうな『変身のニュース』(宮崎夏次系)、働く本気が見える『とろける鉄工所』(野村宗弘)らが私には素晴らしく感じられた。

プロフィール
みなもと 太郎
漫画家/マンガ研究家
1947年、京都府生まれ。67年、デビュー。ギャグとシリアスが混在した作風で人気を博す。2004年、歴史マンガの新境地開拓とマンガ文化への貢献により、第8回手塚治虫文化賞特別賞受賞。平成22年度[第14回]メディア芸術祭優秀賞受賞。代表作に『風雲児たち』シリーズ、『ホモホモ7』『挑戦者たち』のほか、『ドン・キホーテ』『レ・ミゼラブル』などの世界名作シリーズがある。