22回 マンガ部門 講評

マンガの明日を指すもの

何をおいても思いますのが、紙媒体掲載ではない作品がもうこんなに多いのだなということです。大きな出版社も、今はネットで作家を探すことが事業の大きな柱になってきている、とは聞いていたのですが、「自社への投稿者を育てて、収益の上げられる描き手にする」という、気長で優雅な時代は終わりつつあるのだということを実感しました。これは、描き手にとっては有利であろうと思うと同時に、出版側にとっても、育てる手間を省いていきなり収益の見込める作品を手にできるという、両得なことなのだなと思いました。畢竟これからは「会社のカラー」というものがなくなっていくのかもしれません。そして、その味気なさと引き換えに出版社は延命していくのかなと思います。作品の内容については、これは安堵したことなのですが、どのように時代が移ろおうと、マンガを描く人と、それを読む人が大事にしているものに変わりはないなということを確認しました。それはほかのどの国、民族でもなく、日本人の心性に最もフィットするものだ、ということも再認識した次第です。講評を書かせていただいた作品『メタモルフォーゼの縁側』は、まさにそういうものだと思います。「マンガ」を「グローバル」に、という考えがあろうかと思うのですが、その国、そこに暮らす人々の楽しみであることがマンガの第一義ではないかと私は思います。この作品はその思いを裏打ちするものでした。
マンガの「明日」は多分、読者と描き手の「外」でなく「内」にあるのだと思いました。

プロフィール
西 炯子
マンガ家
12月26日、鹿児島県生まれ。1988年に小学館プチフラワー3月号にて『待っているよ』でデビュ-。代表作に『STAY』シリーズ(2002~06)、『電波の男よ』(2007)、『娚の一生』(2008~12)、『姉の結婚』(2010~14)などがある。『娚の一生』は平成22年度[第14回]文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品となる。マンガ作品以外に小説の挿絵なども手掛ける。2006年、『STAY~ああ今年の夏も何もなかったわ~』が古田亘により実写映画化され、15年、『娚の一生』が廣木隆一により実写映画化される。現在、『月刊flowers』にて『初恋の世界』、『ビッグコミックオリジナル』にて『たーたん』などを連載中。