17回 アニメーション部門 講評

アニメーションの自由さ

本年度、短編アニメーション部門の応募(511点)で、海外作品(297点)が国内(214点)を大きく上回ったことは喜ばしい。元よりこの部門は、アニメーションであること以外、国籍はもちろん、プロ/アマ、長編/短編(作品の長さ)さえ全く問わない、開かれたコンペティションであり、そのような特質を持つ"国際コンペ"として、海外にもしっかり根付いてきた証といえるだろう。結果、受賞作品及び審査委員推薦作品は、いずれが賞を獲ってもおかしくなく、国際的水準で質の高い作品が集結すると同時に、そのバラエティ豊かな「自由さ」を感じる見事なセレクションともなっている。短編だけを眺めてみても、まず国内では、『WONDER』(水江未来)、『Anomalies』(和田淳)、『かまくら』(水尻自子)など、内容的なカテゴリー分類を軽々と超越してくれる個人作家作品と並び、商業映画スタッフがそれぞれに味わいを込めて制作したスタジオワーク短編『寫眞館』(なかむらたかし)、『キックハート』(湯浅政明)、『陽なたのアオシグレ』(石田祐康)の完成度とパワーも素晴らしい。また海外作品では、近年、学生作品を中心に、かっちりとした職人的技術の質の高さが光っており、今回の『GrandFather』(『GrandFather』制作チーム代表Kim Minwoo・韓国)、『Semáforo』(Simon WILCHES-CASTRO・アメリカ)、『Premier Automne』(Carlos DECARVALHO/Aude DANSET・フランス)も、その好例といえる。そうした堅実さの一方で、まさに「ぶっ飛んだ」という表現が相応しい、新人賞の久野遥子や姫田真武、推薦作品のししやまざきや冠木佐和子ら、国内の若手個人作家や学生の度肝を抜く作風も必見だ。総じて、文化庁メディア芸術祭の面白さは、短編/長編、国内/海外、個人作家/商業スタッフといったような二極分類にあるのではなく、その先の「横断」「融合」「ジャンクション」を見据えた視点にあると思う。テレビメディアからの委託で「古事記」の世界を描いた山村浩二の『古事記 日向篇』、ベテランスタッフとともに堂々たる「短編映画」を完成させてくれた稲葉卓也の『ゴールデンタイム』は、制作体制やメディアに即して決定されない、アニメーションの「自由さ」を実感させてくれる。今回、『はちみつ色のユン』は、まさにその意味で、国籍、手法、長短編の枠を超えた、大賞にふさわしい傑作なのである。

プロフィール
和田 敏克
アニメーション作家
1966年、福岡県生まれ。早稲田大学法学部卒業。岡本忠成監督の短編アニメーション映画に憧れ、電通プロックス映像企画演出部に入社。96年より独自の手法によるアニメーション制作を開始する。プチプチ・アニメ『ビップとバップ』が国内外のアニメーション映画祭で受賞、入選したほか、川本喜八郎監督『冬の日』では第2部ドキュメンタリーの構成・演出などを担当。2007年、荒井良二原作『スキマの国のポルタ』が第10回文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。ベテランアニメーション作家9人とのアニメーション創作集団「G9+1」も活動中。11年、電通テックを退社。東京造形大学特任教授。日本アニメーション協会理事。日本アニメーション学会事務局長。