19回 アニメーション部門 講評

メディア芸術祭20周年を前にして

今年度のアニメーション部門は、過去最多823編の応募となり、特に756を数えた短編の伸びが著しい。また64の国と地域からの応募は、審査区分としては4部門でもっとも多い。ひとつには、世界的な短編アニメーションの活況が背景にあると考えられる。文化庁メディア芸術祭では、アニメーションが部門のひとつであり、「Japan」「MediaArts」「Festival」という"看板"で、海外のアニメーション関係者に対して構造的な見えにくさがあり、これまでは一般の国際アニメーション映画祭に比べて応募されにくい状況があった。しかし今年も含めこの3年間、アニメーション部門の大賞を海外作品が占め、長編を制して短編が大賞受賞となるなどもあり、国際的なアニメーションシーンにおけるメディア芸術祭の存在感、知名度が増したことも要因のひとつだろう。
他方、劇場/テレビ/オリジナルビデオアニメーションは67編と、このカテゴリーの国内外の制作数からはけっして多いとはいえない。両者の量的な違いが、大賞・優秀賞・新人賞3賞8編における劇場2(テレビ0)対短編6の差を生んだともいえるが、審査会では現場をよく知る委員から日本の商業アニメーションから新しいもの、魅力あるものが少なくなっているとの指摘もあった。審査委員会推薦作品23編の内訳が短編19、劇場3、テレビ1はそのひとつの表われかもしれない。メディア芸術祭は公募方式であり、日本でつくられるすべてのアニメーションが対象とはならず、応募作品は必ずしも日本のアニメーションの状況の全面的な反映とはいえないが、2014年の日本の新作テレビアニメーションが232タイトル、同じく劇場アニメーションが73タイトルという膨大な制作数★1の一方で、日本アニメの活力の低下が懸念される。受賞作や推薦作からは海外作品重視あるいは偏重とも見られるかもしれないが、応募された作品を予断も偏見もなく粛々と審査した結果であることは言を待たない。
メディア芸術祭の高い芸術性と創造性を持つ優れた作品を顕彰し広く紹介するという趣旨からは、一般的な話題性が高いとか興行的に大ヒットしたなどという指標とは異なる規範がここにはあり、その意味で今年の大賞『Rhizome』は、この芸術祭ならではの選出といえるだろう。物語性やキャラクター性に依存する作品でも単なる抽象アニメーションでもなく、もちろんCGシミュレーションでもない。
手描きを出発点にデジタル映像技術を巧みに用いて一種の生態系アニメーションを構築し、表現的にも技術的にもまた形式的にも斬新である。アート部門に適う作品のようでいて、見事にリニアな映像アニメーション作品を成している。また優秀賞の『花とアリス殺人事件』は、実績ある実写監督の初アニメーション作品だが、セルライク(セルルック)な3DCGとロトスコープ、それに手描きアニメーションの組み合わせの妙は、既存の商業アニメーションのフォーマットをなぞらない革新性がある。映像作品の形式性やジャンル概念を問う批評性を持つ作品でもある。そのほかを含め選ばれた作品にはそれぞれに意味や意義があり、優れた作品の顕彰と紹介の目的は今年も十分果たせたと考えている。
とはいえ問題がまったくないわけではない。上映時間が大きく異なる長編と短編、それら完結した一編の作品と一編(1エピソード)では完結しないテレビシリーズ、それらすべてのアニメーションをひとつのカテゴリーで総合的に審査することは、この芸術祭の特色でもあるが、独自性の担保とばかりもいえない審査の困難さは確実にある。また800編を超える数には、アート部門と同様の選考委員の必要性も切実に感じる。アート部門にもエンターテインメント部門にも等しくアニメーション表現やアニメーション技法を含む作品が多数存在し、マンガ部門にすらデジタルメディアを用いた"動く作品"が含まれるようになった。次年度、開催第20回めを迎えようとしている現在、審査の部門や区分、審査の方法や体制を再検討・再構築すべき時期に来ているように思う。

★1─ 日本動画協会データベースワーキンググループ編『アニメ産業レポート2015』(日本動画協会、2015)

プロフィール
小出 正志
アニメーション研究者/東京造形大学教授
1957年、愛知県生まれ。東京造形大学造形学部デザイン学科卒業(映像専攻)。88年、東京造形大学着任。専門はコミュニケーションデザイン、映像学、アニメーション研究。コミュニケーションデザインの教育と研究に携わるほか、アニメーションの教育と理論的研究、研究会やセミナー、ワークショップ、展覧会や映画祭などの企画・運営などに従事。日本アニメーション学会会長、新千歳空港国際アニメーション映画祭実行委員長、日本アニメーション協会理事、インターカレッジ・アニメーション・フェスティバル(ICAF)実行委員。日本映像学会、国際アニメーションフィルム協会(ASIFA)ほか会員。最近の共編著作に『映画百科大事典』(日本図書センター、2008)、『アニメーションの事典』(朝倉書店、2012)、『現代デザイン事典』(平凡社、2014)など。