8回 アニメーション部門 講評

アニメ先進国だからこそ、新たな気持ちで創作への挑戦を

デジタル技術が一般化した現在、予想されたことではあったが、画像主導型の作品が大半であったのは残念である。大賞の候補になった『ハウルの動く城』と『マインド・ゲーム』については、前者の手堅い作りとメジャーの力量を認めるものの、結末について作品テーマとの齟齬を認めざるを得ないという議論があった。後者については、表現のあり方が本芸術祭にふさわしくないのではないかという議論があったものの、物語のテーマと現代の歪みを直截的に表現しているストーリーテリング、そして、アニメでしか描き得ない技法をもって、誤解なく一般的な映画といえる様式を獲得しているので評価できた。他の長編作品については、一部の審査委員の嗜好に合った部分での評価がないではなかったが、基本的には選評の対象にならなかった。アニメが社会的に認知されているという錯誤に基づく製作態度や、もともとアニメなどはレベルの低い仕事であるという潜在的な認識を証明するような現れ方は、当事者として正視することができなかった。上等な媒体でないという認識に立つなら、せめて内向せず公共に楽しさを与えるものであってほしいと思うのである。短編についても同じ傾向があるからこそ、新興の意識に根ざしている風土から優れた作品がここに応募されたことに感謝している。それが『BIRTHDAY BOY』であり、時代性を表現しながらも、情に流されない明快な展開に感服した。アニメ先進国のスタッフはこの作品から学ぶべきものが山ほどあると感じた。また『ACIDMAN short film 』には技法と表現すべきテーマの一致を見て、活力があり、その表現スタイルに好感がもてた。『夢』という佳作には物語性を具有する映像のあり方をシニカルに獲得していて嬉しい。伝統と慣れ仕事に埋没しているスタッフのメンタリティというものは、国境を越えて同列であるのだから、新たな気持ちをもって創作に挑戦していただきたいと関係各位にお願いいたしたい。

プロフィール
富野 由悠季
アニメーション監督・演出家
1941年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。1960年代半ば、虫プロでTVアニメ『鉄腕アトム』などの演出・脚本を経てフリーに。以降、おびただしい数のアニメ・シリーズの絵コンテを手掛け、1970年代後半からは自らの原案・演出で、ロボット・アニメに新風を吹き込む。監督作は1972年のデビュー作『海のトリトン』をはじめ、『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』など多数。最近では『オーバーマンキングゲイナー』他、数々の話題作を手がける。