15回 受賞作品アニメーション部門Animation Division

大賞

優秀賞

新人賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 氷川 竜介
    現実を凌駕するパワーを生み出すアニメ
    アニメーション文化にとっては節目の時期である。テレビは地上デジタル放送に完全移行し、劇場もまたデジタル上映へと推移している。視聴環境からアナログ要素が減じるのとシンクロして、作品は合法・違法問わずデータ化されて世界中に拡散され、その一方で感動それ自体は消費の激化によって永く残りにくい状況だ。ビジネスの安全策を重視して漫画・ライトノベルで実績のある原作をアニメ化するケースが増えるのも自然な傾向ではあるが、審査会では「原作の完全コピー否定」の姿勢が印象的だった。「メディア芸術」の観点では、原作があったとしてもアニメスタッフが「何をやりたいか」というオリジナリティが問われるわけだ。審査委員会推薦作品まで含めた選定には、そんな価値観が反映されている。
    大賞選定は昨年に続いて長き白熱の議論の時間を要したが、最終的には「当たり前を否定する」という流れが優勢となって『魔法少女まどか☆マギカ』に決まった。2011年3月11日には不幸な災害が日本を震撼させ、本作品もその影響でクライマックスが放送延期となった。だが、逆境をバネにして新聞全面広告を打っての一挙放送と、物語内容とシンクロした奇跡の結実を見せてくれた。観た後に何かを語り、行動したくなる。現実を変えるほどのパワーをアニメが生み出し得る可能性を再認識させてくれた作品の大賞に、感無量である。これに触発され、メディア芸術祭の流れそのものも変わっていくことを切望している。
  • 押井 守
    映画監督
    完璧な「コピー」の中で、高度な物語が際立つ
    テレビシリーズ作品に原作付きの割合が異様に高く、しかもその演出が完璧なコピーを目指しているとしか思えない点で共通性がある、というのが際立った傾向だった。さらに、その主題が日常の心象に終始して、劇的な展開や構造を必要としなくなっている=物語性が希薄化している傾向も共通している。漫画原作のアニメへの翻訳や移植など、要するに完璧な「コピー」は、実はかなり高いレベルの作画技術と演出力が必要で、その意味ではテレビシリーズに関わるスタッフの技術レベルが相対的に底上げされたことを傍証している。現在のアニメファンの需要に応える、という側面では評価すべきなのかもしれないが、表現行為としては明らかに後退しており、特定の需要に特化するという傾向が続くとすれば......間違いなく続くのだろうが、憂慮すべきというレベルを超えて、業界全体の自殺行為に繋がると思われる。ただし、一部の制作者、演出家の中に、この傾向を逆手にとって、高度な物語性や突出した演出を試みている応募作もあり、一般性には欠けるかもしれないが、これらの作品を高く評価することにした。
  • 杉井 ギサブロー
    年々進化を遂げる表現技法
    15回にも及ぶ文化庁メディア芸術祭の審査委員を初めて引き受けさせてもらった。現在制作されているアニメーション作品と幅広く触れ合うという機会もない中、こうした機会は魅力的であった。何より、活躍中の多くのアニメーション作家たちの仕事から、創作へ向けての活力をもらえるのではないかという期待もあった。
    私が関わっている劇場映画及びTVシリーズなどのエンターテインメントとしてのアニメーション業界はこの数年、様々な事情から制作状況が悪化しているという実感がある。にもかかわらず、寄せられた作品の数の多さに驚いた。そして各々の作家たちが与えられた条件を乗り越えて制作の工夫や内容に挑んでいる現実にも感動した。短編作品では日本の作家だけでなく、フランスや韓国、その他海外からの応募もあった。アニメーションの表現技法は年々進化を続けている。CG技術もアニメーションという映像表現の中にそれなりに定着したという感もある。
    アニメーション文化の行く末に、このメディア芸術祭のような文化庁の試みがイベントを超えて、どのような作家及び業界への支援に繋がってゆくのかということが、今後の課題のように思えた。
  • 伊藤 有壱
    人材を育成し、世界へ発信する芸術祭へ
    今回は2つの意味で困難な審査だった。1つは審査のための鑑賞条件が統一されず、膨大な作品を様々なメディアで観なければならなかったこと。理由としてはこれからさらに一般化が予想されるWeb応募とDVD、ブルーレイなどが混在する過度期ゆえの状況であり、もう1つはプロダクトとして成長してきた「アニメ」の系譜と、個人作家を核に進化してきたアートを含むインディペンデント作品群の「異質」な価値を同じステージで審査する矛盾がさらに顕著化したことによる。大賞を巡っての『魔法少女まどか☆マギカ』と『マイブリッジの糸』の拮抗がそれを象徴していた。
    担当した短編の特徴は、フランス、ドイツの名門校からの応募が集中したこと、そして短編自体の応募数が減少したことだろうか。躍進著しいアジア諸国からの出品が少ない一面も感じた。海外では3DCG映像などを駆使した芸術表現追求も盛んでグループワークも一般的なのに対し、日本の短編はいまだ「個人手づくり信仰」「技術に対して消極的な空気」が若手才能の創作の向上を妨げている傾向を感じる。解決に向けて国ができることもあるはずだ。同時に本文化庁メディア芸術祭の独自のスタイルを世界にいかに発信するか、指針を巡る討論がもっとされるべきなのだ。
    今年からスタートした「新人賞」や今までの若手受賞者を対象とした人材育成支援プロジェクトの実施など、前進する本芸術祭自体のバリューをもっと広めて国内クリエイターの関心を高め、来年以降の出品作のさらなる活性化に期待したい。
  • 古川 タク
    世界を巻き込むアニメーション作品が生まれていくためには
    アニメーション部門ではどのような方法で審査が行われているのでしょうか?
    審査が始まる前にアニメーション部門の審査委員全員で取り決めたことは、委員各自、各々が心の内でもっている審査基準に照らし合わせて審査する、ということだけです。僕の場合はあえてストーリーやプロット的な面白さ、映像表現や演出の面白さなどはすべてフラットにした状態で審査しました。使用しているツールや、短編や長編といったジャンルも関係なく、ただ「面白い」ものを評価しよう、というだけです。

    各受賞作品の選定理由などを教えてください。
    大賞を受賞した『魔法少女まどか☆マギカ』は強烈でした。最初はただのかわいらしいアニメだと思っていたのですが、あっさりとその皮を破って、とんでもない物語が展開される。テレビシリーズとして、次週を楽しみにさせる演出やシナリオの完成度は見事です。だからこそ、放映するたびにネット上でも大きな反響を呼び、皆がこぞって意見を交わし合った。放映するたびにコアなファンがものすごい母数で増えていくのが伝わってきました。『まどか☆マギカ』の登場によって、深夜枠のアニメは今後さらに面白くなっていくでしょうね。2011 年の春から夏という日本にとって特別な時期に進行していったドラマだったということもあります。
    山村浩二さんの『マイブリッジの糸』は、今年のアート系アニメの中で随一でした。個人作家がアートフィルムとして制作した作品の中では最高峰のものです。僕は正直に申し上げて、1回見ただけではすぐに理解できませんでしたが、作家のトークシンポジウムを聴いてようやく核心に触れられたと思います。会場でも何回も繰り返し見てほしい作品です。マイブリッジが辿る数奇な運命や、「時間」を巡って映像の中に何が描かれているのか、それぞれが見極めてほしい。『まどか☆マギカ』と『マイブリッジの糸』、この2作品を比べて評価するのは無理ですね。

    今年の作品全体のカラーや傾向のようなものはありましたか?
    美大や専門学校などの卒業制作が、例年よりも多く応募されている印象でした。国外からも多数応募がありましたが、日本の学生と海外の学生の作品に対する意識の違いは明白です。海外の学生は明確に世界中のマーケットを視野に入れて卒業制作も行っていますが、日本の学生は作家性にもマーケットにも無頓着で、自由に作りすぎている。けれど、そういう意味で日本の学生はレンジが広いともいえる。作風についても顕著で、国外はフル3DCGが主流になってきていますが、国内では作品の一部に特殊効果のような形で使ったり、デジタルで制作していても手描きを意識したタッチにしている場合が多い。

    アニメーションはこれからどのような変遷を遂げていくのでしょう?
    手描きのアニメーションはアートフィルムに限らず減っていくでしょうね。私たちからすれば寂しい想いはもちろんありますが、手描きの技術というのはツールが変わってもベースとして残っているように感じます。国なんて関係なしに、もっと若いクリエイターはいろんな経験をするべきだと僕は思います。アニメの作り手という存在は元来クレイジーで(笑)、鉛筆一本で言葉を必要としないまま、世界へ冒険することができるものです。アニメを日本独自のものとして打ち出すのはいいけれど、囲い込む必要は絶対にない。若い人は多くの物事と混ざり合って、それこそ世界を旅してかき混ぜられて、新しいアニメーションを生み出してほしいですね。

    メディア芸術祭は今後どのような役割を担っていくと思いますか?
    国際的なアワードなのか、日本的なものなのか、線引きが曖昧になってきていると思います。だからこそ、まだまだ新しい動きは可能で、ネットで応募も審査もできるような、時代に合った世界規模のお祭りにすることだってできると思います。アニメーション部門に限っていえば、『マイブリッジの糸』はアカデミー賞を取れるかもしれない一方で、『まどか☆マギカ』のような作品を評価する場所は海外にありません。映画祭というのは前世紀の、映画的なもののためにあった。その創造力とはまた違った場所を、メディア芸術祭が担っていければ面白いですね。

    未来の応募者にメッセージをお願いします。
    個人作家に潤沢な制作資金はないと思いますが、それでも自由にものづくりができる環境や、自分で発表することの障壁がほとんどなくなりかけているという事実があります。働きながらでもいい、とにかく作り続けてほしいです。メディア芸術祭以外にも、コンペやアワードは世界中に山ほどありますからね。