24回 受賞作品アニメーション部門Animation Division

大賞

優秀賞

ソーシャル・インパクト賞

新人賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 水﨑 淳平
    アニメーションディレクター/神風動画代表取締役
    アニメーションは育てなくとも生まれてくる
    普段はアニメーションを観ることが少なく、2019年から2020年に絞り込んでもこれだけの優れた作品の数があることに驚きます。アニメーションに従事する立場としてはいつ何時世の中に余力がなくなりこの仕事が必要とされなくなってしまうかと覚悟する場面もありましたが、しかし個人の心の叫びや「描きたい」という熱があふれ出した応募作などたくさん観させていただき、アニメーションというのはそっとしておいても世界中の土壌からいつだって芽吹く可能性があり、小さくも個性的な花をつけるものや周囲も巻き込んでの大樹となるものなど、この文化は自然界のように強いのだとひとつ安心しました。『映像研には手を出すな!』は原作の力も強く、それをさらに業界の先端を行く湯浅監督が映像表現したことで内容への説得力が増し、アニメーションを制作することへの関心と熱意が広い視聴者層に伝わりました。『マロナの幻想的な物語り』におけるアンカ・ダミアン監督の大胆な作画演出やデジタルの導入からは、表現したいことに合わせた魅せる手法選びへのしなやかさが熱量を行き渡らせ、「アニメーションはこうつくらなければいけない!」という固定概念が前向きに破壊されました。『ハゼ馳せる果てるまで』はWaboku監督の高い技量をそのまま個人で届く範囲の制作規模にすることで瞬間最大熱量が保たれ、若い作家世代への勇気と意欲が自然発生しソーシャル上の刺激となりました。このように自分が強い存在感を感じた作品には「高い熱量・熱意」がありました。1カットの制作にかけたカロリー(熱量)は不思議なことに視聴者の心に届くという経験を重ねてきました。この1年はほとんどの人が自身のことだけで精一杯にならざるを得ず娯楽が後回しにされてしまう状況となってしまいました。それでも個人の熱量の使い方は自由であり、この先どんな情勢であっても、その時々の土壌だからこそのアニメーション制作に熱量を使うことを応援させていただきたいと思います。
  • 須川 亜紀子
    横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院都市文化系教授
    デジタル時代に響く、心と言葉と映像
    2020年は新型コロナウイルス感染症拡大のために、創作・制作において非常に大きな負担が強いられた年だった。そんな困難ななかで、ご応募下さった方へ感謝申し上げたい。そして、素晴らしい作品群に出会うことができたのは幸運であった。昨年の講評では、長編映画や短編と異なり、長いスパンで物語が進むテレビシリーズは、どのエピソードを応募するかによって審査が難しいことに言及したが、今年はテレビシリーズである『映像研には手を出すな!』が大賞を受賞したことは画期的であり、嬉しく思った。プラットフォームに関して言えば、最近はNetflixなどの配信による長編作品も増えている。外国語の字幕付きで世界同時配信によって届けられるなど、映画やテレビシリーズの枠組みとは異なるプラットフォームを企図してつくられた作品(『泣きたい私は猫をかぶる』や『日本沈没2020』など)は挑戦的で刺激的な物語、演出があった。最近の特徴として、ソーシャル・インパクト賞『ハゼ馳せる果てるまで』、審査委員会推薦作品『Mela!』など、特にネットで発表されるミュージックビデオ的なアニメーション作品も挙げることができる。スマホ画面で気軽に楽しめるアニメーション作品として、映画やテレビとはサイズもモビリティでも異なるスクリーンで展開する作品群が、今後どのように展開されるのか期待したい。女性が主人公の俊英な作品にも出会えた。優秀賞の『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』、『泣きたい私は猫をかぶる』、『マロナの幻想的な物語り』では、大切な人に思いを伝えることの難しさとその思いの大切さが描かれている。新人賞の『かたのあと』は、同性に対する女性の思春期の心の揺れを丁寧に描いており、その揺れが鉛筆の線描と相まって印象的だ。同じく新人賞『À la mer poussière』もフェルト人形で描く母子家庭における母の哀しみと子どもたちの寂しさが、恐ろしいまでに美しく伝わってくる。どれも2度見たくなる作品であった。
  • 佐藤 竜雄
    アニメーション監督・演出・脚本家
    「今」から「未来」へ
    2020年は新型コロナウイルス蔓延という異常事態によって、テレビアニメーションの制作中断や劇場作品の公開延期もさることながら、作品をつくられている個人、サークルなど団体も活動を大いに制限されたと聞きます。そんなこともあってか前年度は543の応募数から今年度は399。2019年につくられた作品も多いとはいえ、やはり今年はやめておこうと思い悩んだ方も多かったでしょう。とはいえ数こそ減ったものの、一人で何作品も応募されたり、映像学校の卒制の発表に当芸術祭を選んだのか、そんな複数人の参加が目立ちました。とりわけ連作というわけではないにしろ、同じような作風が並んでしまうとすべてを平等に審査するのに非常に注意を払わなくてはならなくなります。似たような意味では、歴代審査を担当された方々はテレビアニメーションやテレビの延長である劇場作品の取り扱いには毎回苦労されていたのではないでしょうか。目を惹く演出や作画があるエピソードがあったとしても、それはあくまでその話数の評価であって、全体のシリーズの評価ではない。しかし、文化庁メディア芸術祭におけるアニメーション部門は、そんな「アニメ」をもほかの長編短編、配信作品と同じ土俵の上で審査しようとしています。本芸術祭ならではのセレクション、これは実に困難でしたが楽しい審査でもありました。私はこう考えています。おもしろいものが賞を取ればいいじゃないか―ではそのおもしろいものとは何かというと「アニメーションかくあるべし」といった権威的な評価ではなく、「今」おもしろいもの。とりわけ若い世代が何に興味を持って未来に何を夢見ているのか、そんなものにスポットを当てたい。いろんなジャンルの作品が集まってきているからこそ選びたい。最終審査も一部リモートという状況でしたが、だからこそ未来を向いている作品が選ばれたのではないかと思います。加えて多様性。今回の新人賞はそういう意味では作風もバラバラで、「こういう作品でも賞がもらえるんだな」というひとつの指針になったのではないかと思います。前回から新設されたソーシャル・インパクト賞はメディアテクノロジー並びに人々の行動様式に影響を与えた作品に付与するものとして考えられました。『ハゼ馳せる果てるまで』の作者はここ数年、配信でバズった動画師さんの一人ですが、スマートフォンで作品動画を見る、視聴者数を競う、まさに「今」の若い人の状況を象徴しています。今回、優秀賞は長編が3本、短編が1本です。バランスが悪いと一旦は躊躇しましたが、「そういうコンテストじゃないでしょう」という意見もあり、当初の通りの結果に。『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はテレビ版からの設定の引き継ぎはありましたが、1本の素晴らしい映画としての評価に値する作品でした。逆に大賞の『映像研には手を出すな!』はテレビだからやれること、テレビに盛り込んだらどうなるんだろう、といった試みにあふれていて、「テレビアニメで良かった!」と思える作品でした。この作品に関しては審査委員全員が最高得点を出していて、誰も文句のない決定でした。放送を開始したのは2020年1月6日、まだ世間がそれほど新型コロナウイルスで騒がれていない頃です。当初、この作品を見て映像を志す人が増えるに違いない、とソーシャル・インパクト賞のアタリを付けていたのですが、状況は大きく変わりました。しかし、だからこそ『ハゼ馳せる果てるまで』のように配信で作品を発表している若い世代、さらにそれに続く人たちにあらためて『映像研には手を出すな!』を見て欲しい。今回の大賞、ソーシャル・インパクト賞の意味は、メディアテクノロジーの未来へ向けての本芸術祭からのメッセージだと思っていただけるとさいわいです。今年は、怪我をしたりプロジェクトが凍結したりと私事でいろいろ滅入っていましたが、今回の審査でかなり勇気をもらいました。やはりアニメはいい!
  • 小原 秀一
    アニメーション監督/アニメーター
    経験とイマジネーション
    今回、第24回文化庁メディア芸術祭に審査委員として参加することになった当初、私に取捨選択するだけの責務を全うできるかと不安であったが、たくさんの応募作品に触れていくに従いある感覚と同じだと感じた。どこかで味わっている、そうだ、書店で見ず知らずの作家の頭の中を覗き具現化された知性に触れる畏怖の念である。そしてそれを越えて好奇心と驚きを持って相対する歓びを体験することとなった。主に短編アニメーションの審査中、長編アニメーションの小型版的に陷ることなく、短いながらも作者の想いは凝縮され、今にも爆発しそうな「創る」という「かたまり」となり人々に不可欠な要素であるイマジネーションを喚起し、未知の世界への「経験」へと誘われた。門外漢で恐縮だが、それはバッハがチェンバロという現在のピアノより少ない鍵盤数で、大所帯での表現にも勝るイメージの広がりを今の私達に伝えているように。私はいまだ現役のアニメーターなのでそこはやはり、アニメートの優れたものを重視して観たが選に惜しくも漏れた作品も多々あった。例えば硬い釘をCGで柔らかく動かして命を与えたとしても、それは釘というキャラクターを浮き彫りにはできないしアニメートが上手くても技術の品評会になってもいけない。テーマとアニメートとの関係を再度確認していくことがこれからの飛躍となるのを期待したい。大賞となる『映像研には手を出すな!』は私の現職に関わることと相まってオンエア当時から注目していた。そしてそれが単なる楽屋オチに埋没せず、たくさんの物をつくる人々の共感を呼び起こし長編、短編にかかわらずアニメーション作品として大事な「こうだったらいいな、こうしたいな」というイマジネーションを膨らませ、観客と一緒につくっていく同時性を持って経験させてくれた監督に感謝である。最後になるが未曾有の渦中で次回の応募作品群がどのように影響し、さらなる視点で私たちに迫ってくるのか、つくり手の意義がこの文化庁メディア芸術祭に反映することを願う。
  • 大山 慶
    プロデューサー/株式会社カーフ代表取締役
    「独創性」「完成度」「必然性」
    今回の審査を通して、作品の「独創性」「完成度」「必然性」を強く意識するようになった。優秀賞の『マロナの幻想的な物語り』は、長編アニメーションではあまり見られない、自由な発想から生まれたデザイン、個性的な動きや演出が魅力で、ほかの優秀賞3本は、目新しさはないが作画技術や仕上がりの完成度が非常に高かった。大賞には、独創性・完成度、共に高い水準でつくられていた『映像研には手を出すな!』が満場一致で選ばれ、納得の結果となった。『映像研には手を出すな!』の素晴らしいところは、「イメージボードや設定画がそのまま動いたような絵づくり」をはじめとした、さまざまなオリジナリティのある表現が、物語をより伝わりやすくするための必然として用いられている点である。実験的な手法や演出を取り入れながら多様なエンターテインメント作品をハイペースで生み出し続けているアニメーション作家は湯浅監督のほかに思い当たらない。『ハゼ馳せる果てるまで』は、ネットを中心に多くの人々を魅了している「自主制作アニメの新しい流れ」の代表としてソーシャル・インパクト賞にふさわしく、ここから何が始まってどこへ向かっていくのか、今後の展開がとても楽しみだ。新人賞の『海辺の男』は、表面的ないわゆる「リアル」を捨て、演出によって独特な生々しさや臨場感を生み出した点を評価した。審査委員会推薦作品の『Just a Guy』は、興味深いテーマをさまざまな手法のアニメーションで描いた大変力強い作品なのだが、その手法やデザインに必然性を感じることができず、「作者の好み」の域を出ていないように感じた。「独創性」「完成度」「必然性」のバランスが取れていないと、多くの人間の心を動かすことはできない。しかし、バランスの取れていない歪な作品が、一人の人間の心を大きく動かすこともある。アニメーション表現の可能性を広げる刺激的な応募作品がたくさんあったにもかかわらず、一部の作品しか選ぶことができず、大変心苦しい。