© 2016 National Film and Television School

第20回 アニメーション部門 優秀賞

A Love Story

短編アニメーション

Anushka Kishani NAANAYAKKARA[英国]

作品概要

恋に落ちた2つのキャラクターと、彼らの無垢な世界にゆっくりと侵食してくる暗闇に打ち勝とうとする様を描いたストップモーション・アニメーション。関係性を築く難しさに思い悩む様子が物語の中心になっており、全体を通して、キャラクターのやさしさに光が当てられている。毛糸という暖かな手触りを感じさせる素材を使い、キャラクターの心情を深くかつ誠実に描いている。ストーリーがシンプルであるがゆえに、キャラクターの特徴的な目、背景、照明、音響、音楽を通して複雑な感情が語られ、まるで動く絵画のように見せている。また、7段のガラスの棚によるマルチプレーン撮影台を用いてそれぞれの段に素材を重ね、奥行きをつくって人形を撮影するなど、さまざまな実験的な手法を駆使することで、次々に移り変わるシーンを巧みに表現した。

贈賞理由

何よりも画面いっぱいに現われる毛糸の世界が印象的である。毛糸ならではの質感、糸と糸の絡みあい、糸1本1本が震える繊細な動きは、目を逸らすことのできない魔法のような力を宿しており、いつの間にか観客を異世界へと導き、見てはいけないモノを見ているような、怪しげで不思議な気持ちにさせる。冒頭、カメラのドリー・インによる作品への導きは、顕微鏡で小さな世界を覗いた時のような感覚を呼び覚まし、未知の世界に誘うには的確な演出である。また、作品を「見る」から「覗く」という行為に変化させたことで、悪夢のような強烈な印象を残すことに成功している。色彩変化による表現で感情を生み出す発想と、ボイスを絡めた神秘的かつ独特なサウンドにより、独自の世界観をさらに魅力的なものへと変貌させる監督の手腕は見事である。短編アニメーションならではの質感をまとい、独特な美しさを醸し出すアート感覚あふれる作品と言える。(森野 和馬)