©︎ Adrien M & Claire B-Acqua Alta-Crossing the mirror

第24回 アート部門 優秀賞

Acqua Alta – Crossing the mirror

インタラクティブアート、デジタルアート

Adrien M & Claire B[フランス]

作品概要

実際の紙に描かれたドローイングをタブレットやスマートフォンの専用ARアプリを通して見ることで、ストーリーを鑑賞できるポップアップブック。白い紙を折ってつくられた家や黒いインクで表現された背景の上に、ダンサーの動きを撮影して作成されたAR映像が重ねられる。映し出されるのは、一軒の白い家とそこで暮らす黒いシルエットの男女。ある雨の日、彼らの生活は一変する。上昇する水により家はインクの海に沈み、女は足を滑らせて姿を消す。あとには、生きているかのように動き続ける彼女の髪だけが残される。作品名の「アクア・アルタ」はベネチアで見られる高潮現象を意味する。唯一無二な事象でありながら普遍的な自然現象でもある災害をモチーフとし、作品化した。演劇、ダンス、マンガ、アニメーション、そしてアーティスティックなビデオゲームを横断する体験を提供する。

贈賞理由

本や絵本を読むということは、そこに書かれた言葉や描かれた絵から想像力を触発される行為である。その際に、重要な役割を果たしているのが、ページをめくる手の動きや紙の重さや感触から得られる物理的な体験である。本作の魅力のひとつは、ポップアップ(飛び出す)絵本とAR技術を融合させながら、物理的な紙の本の感触や体感を尊重し、作品体験を実現している点にある。さらに、タブレットやスマートフォンに映像が映し出されると、三次元の絵本は、一転して物語の舞台背景となり、登場人物たちは、アナログ―デジタル、絵本―映像―パフォーマンスといった領域間を横断することで観客を作品世界へ誘う。このメディア横断性に、綿密な分析に基づいた技術力と機知に富んだ独創性を見出すことができた。物語と現実とが交差するメタファーが散りばめられ、新たな映像言語の実験であると同時に、パフォーマンス表現の可能性を開いている。(田坂 博子)