©︎ Sumako Kari

第23回 マンガ部門 優秀賞

あした死ぬには、

雁 須磨子 [日本]

作品概要

40代を迎えた女性たちが、仕事、人間関係、そして心身の変化について向き合う物語。42歳独身、映画宣伝会社に勤め、ハードワークをこなす本奈多子。発汗や苛立ちなどが続き、更年期障害を疑い始めた多子は、ある夜、激しい動悸と体の冷たさに危機感を覚え、救急車を呼ぶことに。もう若くないという事実を嚙みしめると同時に、これからの人生をどう生きるべきか、多子は考え始める。一方、多子の中学時代の同級生・小宮塔子は、大学生となる娘もいる専業主婦。夫の上海転勤を機に始めたパートで、客からの「おばさん」という呼びかけにショックを受けるが、同時に同じ職場の20歳の青年を意識し始め、相談相手を求めて久々に多子に連絡を取ることになる。そんな折、多子は、仕事関係の知人の有岡から、ガンで余命宣告をされたことを打ち明けられる。人生の折り返し地点とも言うべき40代を生きる人々の感情を、細やかなディテール描写と詩情豊かな独白とともに描く。

贈賞理由

女性の「加齢」をビジュアル文化であるマンガで描く、という難しいテーマをこんなにも素敵な作品にできるとは。作者はつくりごとっぽさのない言葉選びが抜群にうまい。本作でも40代女性の体調の変化や将来への不安を、自然だが鋭いモノローグやセリフで巧みに表現する。女性の裸の肉づきなども美化されず絶妙にリアル。が、作者の味のある描線で描かれると、これまで生きてきた証だ、といとおしくすら思えてくる。BLや女性誌、青年誌と多彩な媒体でキャリアを持つ作者が、等身大の実感を交えつつ繊細に、かつどこか軽やかに描いた本作は、時につらい加齢による変化も、自分の中にいた新しい自分なのだと「脱皮」のイメージで捉えることで、年を重ねることをそっと肯定してくれる。若くはないが死ぬには早い、そんな微妙な年齢の葛藤を、デリカシーに満ちた新鮮な表現で描き、見事に射程の広く深い作品に結実させた本作を讃えての贈賞となった。(川原 和子)