©Takako Shimura 2015

第19回 マンガ部門 優秀賞

淡島百景

志村 貴子

作品概要

「女性だけの歌劇学校」というひとつの場所に集まり、同じ時間を共有した少女たちのかけがえのない青春の日々が、人物の視点を変えて、ときには時代を超えて、オムニバス形式でつづられた青春群像劇。淡島歌劇学校合宿所、通称“寄宿舎”には、舞台に立つことを夢みる少女たちが全国から集まってくる。ミュージカルスターに憧れて入学した田畑若菜(たばたわかな)、親友の思いを背負って学び続ける寮長の竹原絹枝(たけはらきぬえ)、周囲の視線を集める美しき特待生の岡部絵美(おかべえみ)、女優一家に育ちながらも教師の道を選んだ伊吹桂子(いぶきかつらこ)。歌劇学校という特殊な空間は、胸いっぱいの憧れをかかえた少女たちがともに憩う場であると同時に、年端もいかない生徒同士の苛烈な闘いが繰り広げられる場でもある。たゆまぬ努力が実り、才能が花開く場であり、残酷な現実が少女の前に立ちはだかる場でもある─。透明感あふれる絵柄と心理描写から、登場人物の内面が繊細に紡ぎだされている。

贈賞理由

志村貴子氏は、まさしく「旬の作家」である。本賞にも複数の作品が応募されてきたが、いずれも上質で票も割れることになった。結果的に『淡島百景』が選ばれたのは、静謐なまでの絵の美しさと文学的ともいえる構成の巧みさが評価されてのことである。
宝塚をモデルにしたと思しき歌劇学校を舞台にした本作は、一編ごとに語り手が入れ替わる短編を集めたオムニバス作品である。同じ舞台上で複数の物語が交錯するスタイルは、映画では「グランドホテル形式」として知られているが、本作は、さらに時代まで飛び超えている。コマ間、シーンのあいだにも大胆な省略があり、読者はその空白を自分で読み解くことを強いられる。文学作品のような読後感を覚えるのも、このあたりに理由がありそうだ。本作は、今後も数多の短編を積み上げた後で、真の主役ともいえる歌劇学校の歴史と全貌が、鮮やかに浮かび上がるのであろう。その日が来るのを待ちかねている。(すがや みつる)