©︎ ART for SDGs: Kitakyushu Art Festival Imagining Our Future

Photo: Seitaro Ikeda

第25回 アート部門 ソーシャル・インパクト賞

Bio Sculpture

メディアインスタレーション

田中浩也研究室+METACITY(代表:青木 竜太)[日本]

作品概要

人間が発展させてきた技術や社会システムを自然へと開くことで、人と自然の関係性を塑像する「人新世の社会彫刻」の模索を掲げるプロジェクト。土や籾殻といった自然素材を組み合わせて出力素材とし、3Dプリンターによってその内部構造を付与することで能力を拡張した「環境マテリアル」を使用する。今作では赤土、黒土、赤玉土、籾殻からなる彫刻を制作し、サンゴ礁の発生アルゴリズムを基に付与されたひだ構造が彫刻の表面積を最大化させるとともに、表面に日陰や日向が複雑に入り組んだ微小環境をつくり出す。この表面には9種の苔が共生するように配されており、温度・湿度・CO2・空気の汚れ等を自律的に調節。デジタル技術によって自然ではありえない環境をつくり出すことがいかなる効果を持つのかを、微生物環境の変動を含めた長期的なセンシングにより明らかにしていく。時間の経過とともに潜在していた生態系の姿が顕在化してきたときが、本作の真の意味での完成となる。

贈賞理由

人新世やマルチスピーシーズ民族誌をはじめ、さまざまな分野で生態系の捉え直しが模索されている。こうした議論のなかに、新たな技術をどのように位置づけていくべきかは重要な課題だ。本作は、巨大な3Dプリンターを用いて、苔や微生物の繁殖を促すための生態環境を自然の素材を基に造形している。この作品は、サンゴ礁の復活プロジェクトのような喫緊の課題に直接応えるために動員されるわけではない。むしろ、都市圏のオープンフィールドに設置され、この人工的な造形物が周辺環境にどのように溶け込んでいくのかを、人々が巨視的に見守ることができるように導いている。同時に微細構造にも配慮し、センシング技術によって微生物相や各種生態パラメータ、さらには土の成分などが長期的にどのように変化していくのかもモニターできるようになっている。実践的総合知を伴う新たなメディア芸術の展開として意義深く、ソーシャル・インパクト賞にふさわしい。(岩崎 秀雄)