第19回 アニメーション部門 優秀賞

Isand (The Master)

短編アニメーション

Riho UNT

作品概要

一軒の家で、ある日を境に戻らなくなった主人(Master)の帰宅を待つ犬のPopi(ポピー)と猿のHuhuu(フフー)を描いた短編アニメーション。Huhuuは最初、檻に入れられていたが、そこから出ることに成功すると2匹の共同生活が始まる。Popiは、実際はHuhuu以上に賢く強いのだが、従順かつ恭順な性格の持ち主であることから、Huhuuの気まぐれの前に屈服してしまう。そのHuhuuは愚かなまでに自由奔放な性格で、部屋の中を好き放題に散らかしてしまう。本作の原作は、エストニアの作家フリーデベルト・トゥクラスの短編小説『Popi and Huhuu』(1914)である。コマ撮りによるリアルなパペット・アニメーションである本作によって、作者は権力の恐ろしさと愚かさを問いかけ、権力とは何かを究明しようと試みている。われわれの主人とはどのような者か。もしその主人の性質や行動がHuhuuと似ているとしたら、その結果はどのようになるだろうか。動物らしい「動き」が巧みに表現されているだけでなく、強いコンセプトが描かれた作品。

贈賞理由

きわめて完成度の高い作品である。登場するのは犬と猿(チンパンジー)。アニメーターの力量を感じさせるそれぞれのパペットのリアルな動きと巧みな演技、物語の導入から悲劇のエンディングまでの脚色と演出は、まさに完璧なプロフェッショナルの仕事といえるであろう。画面構成におけるライティングとカメラワーク、加えて音響効果は、すべてが実空間の出来事だと思わせ、その表現力は見事である。犬Popiが猿Huhuuに対して感じている恐怖は従順と服従を、猿は凶暴さ、みだらさ、おろかさを象徴している。この犬と猿は擬人化されてはいない。しかしそれぞれの、特に犬の感情の表現は人情細やかである。ただ、猿においては限りなく人間に近い演技をするシーンもあって、物語の展開を際立たせるためであろうが、この部分のみつくりものめいて少し疑問符が残ったところではある。悲しいまでのひたすらな従順と、おろかなる凶暴の果てのあっけない終焉は、はかなくもむなしい。これは犬と猿に置き換えられた世の無常の話だとこじつけるのは野暮というべきだろうか。(大井 文雄)