©︎ Miki Yamamoto

第24回 マンガ部門 優秀賞

かしこくて勇気ある⼦ども

⼭本 美希[日本]

作品概要

第⼀⼦の妊娠がわかり、これから生まれてくる我が⼦への期待に胸を膨らませる若い夫婦。自分たちの⼦どもが「かしこくて勇気ある⼦ども」に育てば、その子には明るい未来が訪れるものと信じ、世界中の優秀な子どもの話をネットで読んだり、育児書を吟味したりしつつ、妊娠期間を楽しんでいた。しかし、出産を⽬前に控えた妻は、女性の人権のために活動するパキスタンの少女、マララ・ユスフザイさんの乗るスクールバスが、イスラム過激派に襲われた事件をテレビのニュースで知る。「かしこくて勇気ある子ども」であるがゆえに、その命をほかの子どもたちとともに脅かされることになったマララさん。この事件を知った妻は動揺し、世界の子どもたちを取り巻く現実について考えを深めるようになる。これから生まれてくる子どものために、自分は何をするべきなのだろうか。親しみやすいタッチで出産の喜びを描きながらも、世界の子どもたちが置かれている実情を問いかける作品。

贈賞理由

本作は、現代に生きる人の不安と葛藤、そしてその先にあり得るものを見事に1冊の本として結実させた。描かれるのは、生まれ来る子への期待と歓喜が、ある事件を機に一転、不安にさいなまれる妊婦・沙良の姿だ。情報の洪水に、希望や心配がときに果てしなく膨張してしまうことや、世界への不信は、現代人に共通する苦しみである。だからこそ沙良の懊悩は普遍性をもって読者に響く。本作はさまざまな表現技法に工夫が凝らされた挑戦作だが、読みやすく、広い読者に届く表現となっている点も素晴らしい。色鉛筆による彩色は、時に不穏に、そして温かく物語に血を通わせる。作者は寡作だが、1作ごとに鮮烈な作品を生み出しマンガ界に独自の存在感を示してきた。「かしこくて勇気がある」とは、どういうことなのか。世界の残酷さに対抗し、事態を好転させるすべはあるのか。その深い問いに対する、優れた創作者の力強い解答がここにある。(川原 和子)