第25回 アニメーション部門 優秀賞

Letter to a Pig

短編アニメーション

Tal KANTOR[イスラエル]

作品概要

ホロコーストの生き残りである年老いた男性の辛い記憶と、それを聞いた少女の内なる旅の様子を描いた作品。戦時中、敵に追われた男性は、逃げ込んだブタ小屋に隠れてブタとともに生活することで生き延びた。その壮絶な体験を現代の学校で生徒に向けて語る。少女は人ごととして興味なさげに聞いているが、男性がブタに向けた感謝の手紙を読みはじめると、そこに1頭のブタが現れる。男性の語りが感情的になるにつれ、少女は徐々に内面の世界に入り込んでいく。空想のなかで少女は、最初はブタを汚く恐ろしいものとして扱うが、やがて動物と人間のあいだにある境界が曖昧になっていく過程で、慈しむべき存在であることに気がつく。基本はモノクロで描かれたシンプルなアニメーションでありながら、手や目などの実写、また人やブタの肌の色が各所に加えられることで、その人物が過ごしてきた年月や感情、生き物としての体温や躍動感が表現されている。

贈賞理由

近年その勢いを増しているアニメーションドキュメンタリーの領域で、戦争体験は特権的なテーマといっても過言ではない。とはいえ、そこには互換性のない個的体験を「かつてあった悲惨な物語」に単純化・無害化してしまう落とし穴も存在する。本作品におけるホロコースト体験者の語りをベースとした構成、実写とドローイングをブレンドした映像スタイルはドキュメンタリーのそれに近い。だが、この物語のなかで、聞き手である主人公たちは安全地帯からの傍観者にとどまることを許されない。被害者が教訓的な語り手であることを止めたとき、その問いかけは画面の前の我々自身にも現実のものとして突き刺さる。人間の目を持ったブタと、ブタの鼻にデフォルメされた人間(言うまでもなく、ブタはユダヤ人にとって穢れの対象である)。人間性と獣性の境界線が揺れ動き、反転するさまはスリリングであり、アニメーションの持つメタモルフォーゼや擬人化の機能が最大限に発揮されている。(権藤 俊司)