©︎ Vivement Lundi ! – 2019

第23回 アニメーション部門 優秀賞

Nettle Head

短編アニメーション

Paul E. CABON [フランス]

作品概要

ある少年の恐ろしい体験を描いた手描きの短編アニメーション。バスティアンは友人2人と自転車で出かける。たどり着いたのは、廃棄された機械やイラクサで埋め尽くされた、立ち入り禁止の廃墟。友人の一人は、バスティアンを試すように「フェンスを越えてしまうと、後戻りできない」と告げる。バスティアンが足を踏み入れると、そこには有毒なガスが蔓延しており、得体の知れない無数の黒い手が襲ってくる。友人たちが見守るなか恐怖と戦い、最終的に打ち勝ったバスティアンは、以前よりも自信に満ちた面持ちで2人と合流する。少年が立ち向かった、ミステリアスで奇妙、そして恐ろしい存在を表現すべく、全体に抑えた色調と不気味な効果音によって物語は描かれる。故郷であるフランスのブレストで友人らと絶壁から水中に飛び込んだという若き日の作者自身の体験を基に、イマジネーションにあふれた少年期の世界を伝える。

贈賞理由

子どもから大人になるための通過儀礼を、荒々しい線と毒々しくも美しい色合いで表現している。一見するとがさつな線は、思春期のとげとげした不安定さをよく表しているし、その荒々しさにもかかわらず、少年とそれを追いかけてくる変な「手」との揉み合いの描写では私たちの生理的な部分にまでヌメッとした触感の気持ち悪さで迫ってくる。荒さと滑らかさの共存が不思議と成立している奇妙な作品である。そして、もがき苦しみながら生まれ変わって現実世界に戻ってくる彼を、とうに大人になった(はずの)私たちは、安全なモニターの前で青春の甘酸っぱさやとげとげしさを懐かしみながら眺めているが、彼らのようなイニシエーション(通過儀礼)を経験せずに大人になってしまったことを忘れて、余裕ぶって観ている「仮大人」なんじゃないか。そんなことを感じさせる作品でもある。仮大人から優秀賞を差し上げます。(和田 淳)