©︎ 2019 Natura Machina

第23回 アート部門 優秀賞

Soundform No.1

メディアインスタレーション

Natura Machina(筧 康明/Mikhail MANSION/WU Kuan-Ju) [日本/米国/台湾]

作品概要

熱エネルギーが音響エネルギーに変換されるときに発生する音を利用した、動的な装置のインスタレーション作品。ニッケル・チタンによる形状記憶合金のバネを、展示空間に吊り下げられた複数のガラス管の中に組み込み、電熱で温める。一定の温度を超えると中のバネが光って形状が変化し、ガラス管の角度を変えていく。ガラス管の角度が変わることで空気の流れも変化、熱が空気そのものを振動させて音を発生させる熱音響現象が起き、独特の音を奏でる。熱から音への変換は、空気の流れ、温度、ガラス管の向きといった状態に影響を受けるため、熱量やガラス管の動きを変化させることで、さまざまな響きを生み出すことができる。1859年にオランダの科学者・レイケが発明し、その名にちなんでつけられた「レイケ管」と呼ばれる熱音響装置。これを応用したガラス管を展示空間に複数設置するという着想によって、エネルギーの変換による音と光が共鳴し、視覚と聴覚に訴えかける。

贈賞理由

メディアアートが「サウンドアート」を重視してきた意味は、美術や音楽の領域における伝統的な美学からの脱却にある。その反面、音響派成立以降のコンピュータソフトウェア依存のサウンドアートは、誰もが類似した方向性に収斂されていく陥穽があった。ソフトウェアを逸脱した固有性を獲得するために、物理現象やモノ世界へのアクセスとライブ性の再検証は、デジタルマテリアリズム以降の新たな様式とも言える。本作品は、19世紀中葉に発見されたレイケ効果を中軸に据えつつ、多数のシリンダーがタイミングをずらして熱せられ、独特の熱音響を発することで、個別の差異や揺らぎを内包する集合的な音響空間を創造していくが、それらは電子音響からは聞き取れない特異な音色や強度を持っている。緻密に設計されたシンプルな物理装置は、魅力的な反復性を生み出し、エネルギーというきわめて現代的な社会的トピックから生まれる集合音響は過激な新鮮さを持つ。(阿部 一直)