第23回 アート部門 優秀賞

Two Hundred and Seventy

メディアインスタレーション

Nils VÖLKER [ドイツ]

作品概要

270個の白いゴミ袋と1,080個のファンなどによって構成されたサイト・スペシフィックなインスタレーション。19世紀に建てられた円柱型ホールの上方に、約70㎡にわたって設置された白いゴミ袋が、ファンの風を受けて膨らんだり萎んだりする。天井から湾曲するように垂れ下がったゴミ袋は、プログラミングされたファンからの風によって波紋のように次々とその収縮のパターンを変えていく。ゴミ袋とファンが生み出す流動的な動きとゴミ袋が収縮する音がホール全体を満たすことで、空間とインスタレーション自体の形状との境界線が溶け合うような感覚を鑑賞者に与える。日常的な素材と精緻なテクノロジーの組み合わせによって、波のような有機的な動きの発生とその仕組みを模倣した。本作は、2018年から2019年にかけてオーストリア応用美術博物館で開催された展覧会「Sagmeister&Walsh: Beauty」のために展開された。

贈賞理由

大きなスケールの自然物がある。例えば海や山やオーロラは人の心を動かし、そこに畏敬の念やある種の宗教心すら生まれる。それは巨大な人工物にあっても同じで、例えばスーパーカミオカンデや、巨大なダム、競技場、はては万里の長城まで、巨大なスケールはそれだけで新しい情動を喚起させる仕掛けとなる。この作品は、270個のゴミ袋を、ドームの天井に70㎡のグリッド状に並べ、ゆっくりと同期させて膨らませたり縮ませたりするシステムである。そのゆっくりとした時間周期と巨大なグリッドは、圧倒的であると同時に有機的でもある。それがゆりかごの揺れのように人々を瞑想的モードへと導いてくれる。それはデンマークの海岸にならぶ風力発電群か、成層圏にぶつかって大きく広がる初夏の積乱雲か。しかし、このきわめてアナログ的な作品を見上げていると、それは効率さを追い求めるAI社会への静かな批判となっている気がする。そこにこの作品の魅力がある。(池上 高志)