13回 エンターテインメント部門 講評

今年のエンターテインメント部門の特徴は、エンターテインメントらしい楽しい作品が多かったことだ。先進的な技術を取り入れた実験的な作品の価値は高いが、エンターテインメントとして人々を満足させるためには、こなれた技術を大胆に用いる必要がある。そういう視点で見ると、YouTubeが当たり前になった時代の作品が並んでいると感じる。人々はYouTubeを通じて手軽に面白い映像を視聴できるようになった。より手軽により楽しいものを求める傾向は強まるばかりだ。大賞の『日々の音色』はYouTubeでも高い評価を得ていたが、YouTube的でありながら高い技術と作家性を打ち出した点が素晴らしい。大賞以外は議論もあったが、一分野に偏らない結果になった。要素技術の精度の高さが評価された『scoreLight』を除くと、ゲーム・Web・映像とそれぞれに完成度の高い作品が並ぶことになった。奨励賞の作品も含め、作者の皆さんの努力に敬意を表したい。映像はHD化し、ネットワークはブロードバンド化し、そういう方面での新技術の普及は一段落したようにも感じる。完成度の高い作品の受賞という傾向がしばらく続きそうな予感もあるが、枠にとらわれない破天荒な作品の出現を望みたい。

プロフィール
河津 秋敏
ゲームデザイナー
1962年熊本県生まれ。87年スクウェア(現・スクウェア・ エニックス)入社。『ファイナルファンタジー』『ファイナルファンタジーII』(ファミリーコンピュータ)の開発などに携わり、ディレクターとして『魔界塔士Sa・Ga』(ゲームボーイ)を制作。以降すべての『サガ』シリーズを手がける。2003年『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』(ゲームキューブ)を発表し、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞受賞。