第13回 マンガ部門 講評
最終審査に残った作品はどれも個性豊かで、マンガという表現の広がりと奥行きの深さを改めて実感する選考となった。入賞作以外にも論議に上った作品は多く、それらにも一言ふれておきたい。若手、中堅の清新な作品に早い段階で票が集まり、そのぶんベテラン勢が一歩を譲る結果となったが、村上もとか『JIN―仁―』、諸星大二郎『未来歳時記 バイオの黙示録』、安彦良和『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』など、いずれも作者の代表作に数えられる秀作といえよう。とりわけ、くらもちふさこ『駅から5分』は、ネット社会といわれる現代の人と人との関わりをマンガならではの表現でとらえた意欲作。小さな町に住む、世代も職業もばらばらな人々が、日々の営みの中でゆるやかにつながりあっていく。また、いがらしみきお『かむろば村へ』が描き出す、貨幣を拒否した青年が体験する一種のユートピアも、人の心が引き起こす奇妙な事象に彩られた特異な読後感で強く心に残った。
プロフィール
村上 知彦
神戸松蔭女子学院大学教授
1951年、兵庫生まれ。関西学院大学社会学部卒業。評論家、編集者。スポーツニッポン新聞大阪本社文化部、チャンネルゼロ取締役、情報誌「プレイガイドジャーナル」編集長を経て、神戸松蔭女子学院大学文学部総合文芸学科教授。手塚治虫文化賞選考委員。日本マンガ学会理事。著書に『イッツ・オンリー・コミックス』(広済堂文庫)、『まんが解体新書』(青弓社)などがある。