16回 アニメーション部門 講評

日本の短編アニメーションの多様性

今年に限っての目立った特徴があったとは思わないが、年々日本の短編作品の層の厚さが感じられてそこは嬉しい。実は今回の審査委員会推薦作品をこの本数に絞り込むのは大変であった。惜しくも選に漏れた作品のなかにも興味深い作品や素晴らしい完成度の作品がたくさんあった。最後の決め手となったのは過去作品との比較で、このタイプのものでは以前にもっといいのがあったとみなされた作品群が姿を消した。  海外からの応募も増加して、明日からでも世界の大手制作スタジオで働けそうな学生CG作品もいっぱい応募があった。が、テーマや作風に、勝手気ままな個性が光る日本の作品のほうが観ていて面白かった。言い換えると、それだけ海外の、特に学生作品などは産業に直結していて、就活も視野に入れた、学んできたスキルを前面に押し出しているものが多く、その分作品としての個性的な魅力に欠けるということかもしれない。どっちがどうとは言えないが、日本の若手による短編アニメーションにせっかく優秀な人材が育ってきているので、商業アニメーションの世界ともう少し接点があってもいいかな? CGや美術の現場ではすでに活躍中の人も多いが、原画、作画監督、演出というコースの外にも優秀な才能がいる。
あとはCGと手描きアニメーションの融合、いわゆるハイブリッド化したアニメーションの日本スタイルが完成しつつあるということなのか、大賞の『火要鎮』、優秀賞の『アシュラ』、新人賞の『LUPIN the Third ~峰不二子という女~』がいずれも素晴らしい出来で高得点を獲得した。外国作品のなかでは『Oh Willy...』の持つ芸術性が断然光っていた。

プロフィール
古川 タク
1941年、三重県生まれ。TCJ、久里実験漫画工房を経て、70年代よりフリーのひとコママンガ家、イラストレーター、アニメーション作家として活動。アヌシー国際アニメーション映画祭審査員特別賞、第25回文藝春秋漫画賞、文化庁メディア芸術祭優秀賞など受賞、紫綬褒章受章。東京工芸大学客員教授。近著に古川タク瞬間漫画集『ブルブル』(文源庫)、絵本『かんがえるのっておもしろい(かがやけ・詩─ひろがる ことば)』(小池昌代編、あかね書房、2008)など。