21回 マンガ部門 講評

切り裂いたキャンバスの向こう側

今回初めて審査委員を務めさせていただいた。正直とまどったが、自費出版した『天顕祭』で奨励賞(現新人賞)をいただいたのをきっかけにさまざまな可能性がひらけた自分である。そろそろ恩返しをする頃なのかもしれないと思いお受けする事にした。いざ審査を始めてみるとその重圧は質量ともにすさまじかった。応募作はいずれも濃厚で、その良さもさまざまだ。見たこともないマンガにはっとすることも、未読だった人気作に感動の涙を流したこともあった。ともかくも自分なりに評価軸をたくさん設けて、フェアに審査するようつとめた。とはいえ5人の委員が集まり審査を進めていくと、複数委員の評価がそろうものに傾向が現れてきた気がした。何というか、世界というキャンバスを直接さくりと切り裂いて、その向こうを見ようとするような作品。その向こうに見えるものはさまざまで、それは青空かもしれないし虚無かもしれないが、そこを覗かずにはいられない、そんな作品が集まっていく様子は不思議であり納得でもあった。審査委員会推薦作品にもすぐれたものが数多くあり、『フイチン再見!』はキャンバスに彩り豊かに描かれた大作だ。戦前に出版された「漫画講座」が私の手元にあるのだが、その中に女性は漫画家になれるのか?という下りがある。女にはユウモアがわからず、修行に耐えられないといった偏見が披露され、ジャンルによっては女性に向いているものがあるはずだ、例えば人情の機微や愛と美など、と締めくくられる。今となっては女性マンガ家はあらゆるジャンルのマンガを描いて当然だが、そうでない困難な時代、どんな女性がパワフルに状況を突破していったのかが『フイチン再見!』には説得力を持って描かれている。完結した今広く読まれて欲しい。『あしあと探偵』の読みやすさは話題になった。流れるように「あしあと」を追わされる感覚に才能を感じる委員は多かった。語り尽きないマンガの魅力に改めて気付かされる審査だった。

プロフィール
白井 弓子
マンガ家
1967年、愛媛県生まれ。京都市立芸術大学美術学部油画専攻卒業。『月刊アクション』(双葉社)2014年2月号(2013年12月25日発売)─2015年4月号(2015年2月25日発売)