12回 アート部門 講評

【作品カテゴリ別講評】静止画

静止画全体として、さまざまな方向性を持った多様な表現が見られ、その点では見応えがあったが、現代社会を風刺するような、あるいは社会への強いメッセージを持った作品は『OUTSIDE』以外、出会えなかった。そういう意味でも私個人として、『OUTSIDE』がただひとつ秀逸だったと言って過言ではない。おもしろい表現や試みが、やはり現代の社会とどうつながるのかを、もう少し考えてみてはどうだろうか。おもしろいことをすることそのものが目的化すると作品は弱くなる。つかみ所がなく混沌としている現代社会では、目が覚めるような鋭い切り口を見せてもらいたい。アートの力で、それをやらずしてほかでできるのだろうか。現代のテクノロジーを使えば、うまい作品はできて当たり前で、作品に向かう以前の社会に対する問題意識があるのかどうかが問われる。自分が一番問題意識を持っていることへ向かうのが正しい方向だろう。強い問題意識を社会に対して持っていない者が、強いメッセージを持った作品など作れるわけがないのである。つまりアートは、自分をどこまで追い込むことができるかが問題で、作家の生き方そのものがそこに表れてしまい、そこからは逃れられない。

プロフィール
佐藤 卓
グラフィックデザイナー。「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発から始まり、「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品デザインを手がけるほか、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」等のVIデザイン、NHK教育テレビ『にほんごであそぼ』の企画・アートディレクション、東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTではディレクターを務めるなど、活動は多岐にわたる。