15回 アート部門 講評

テクノロジーの進歩によって新たな世界がひらかれる

芸術の歴史をたどると、美や創造性といった定義しがたい情緒的な価値のダイナミズムによって編まれてきた系譜と、科学やテクノロジーによってひらかれた世界観で編まれてきた系譜の2つがあることに気付く。メディアアートは後者の系譜に連なるものだろう。解剖学や遠近法の発見は、ルネサンスという芸術の冒険を加速させたが、カメラの登場、飛行船の登場、人工衛星の登場、電子顕微鏡やコンピュータグラフィックスの登場などによっても人間の視覚は拡張され、世界の描かれ方はその都度劇的に変化してきた。メディアアートを審査し、その優れた功績を顕彰するなら、テクノロジーの進歩によって僕らがどのような世界を見ることができるようになったかを、いかに気付かせてくれるかという点から評されるべきだと思う。個人的に心に残っているのは、スペースシャトル「チャレンジャー」の打ち上げ失敗を見た記憶を、色面構成のアニメーションとして展開した『The Saddest Day of My Youth』である。これはスペースシャトルというテクノロジーを「メディア」として感じた際の世界のリアリティとして気付かされるものがあった。大賞の『Que voz feio(醜い声)』は哲学性・文学性の高い表現で好感をもったが、テクノロジーの咀嚼という意味においては、従来の映像芸術の領域に属するのではないかと思われた。

プロフィール
原 研哉
グラフィックデザイナー
1958年、岡山県生まれ。武蔵野美術大学教授。日本デザインセンター代表。「もの」のデザインと同様に「こと」のデザインを重視して活動中。2002年に無印良品のアドバイザリーボードのメンバーとなり、アートディレクションを開始する。「REDESIGN」や「HAPTIC」など独自の視点で企画した展覧会を通して、日常や人間の諸感覚に潜むデザインの可能性を提起。AGF、JT、KENZOなどの商品デザインのほか、松屋銀座リニューアル、森ビル VI、代官山蔦屋書店VI/サイン計画などを手がける。主著に『デザインのデザイン』(岩波書店、2003)、『日本のデザイン─美意識がつくる未来』(岩波書店、2011)。