23回 エンターテインメント部門 講評

ハード的な発明よりもソフト的な発見

テクノロジーをテクノロジーとして楽しむ季節がとうに過ぎたことは、昨年指摘した。元号が変わり令和になってさらに顕著なのは、ソフト側の充実が待たれていることだ。ハードとしての大発見や大発明というより、既存のテクノロジーや社会情勢の組み合わせによっていかに斬新な印象を与えることができるか。美しさを提示できるかが、問われているように感じる。大賞に選ばれた『Shadows as Athletes』は、1964年の東京オリンピックの頃からそこに滞在していたであろう影に焦点を絞った美しい映像だ。記録を競い合う選手たちの動き、実際の肉体を見るよりも時にしなやかに躍動が伝わってくる。ハード的な発明というよりは、ソフト的な発見。光と影、反転した世界からセンス・オブ・ワンダーを導く。文句無しの大賞。優秀賞を受賞した『amazarashi 武道館公演『朗読演奏実験空間"新言語秩序"』』や『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』のグロテスクな表現は、少し前ならエンターテインメントとして許容できていなかったかもしれない。現代的なアプローチだと感じた。AIに関する応募作が複数あったなかで、『大喜利AI& 千原エンジニア』のクオリティと効果は目を見張るものがあった。某歌番組に出演したほうのAIは賛否両論であったが、その境目は死後も新作を出したいかどうか。新しいテクノロジーを使って、後代に伝えたいことがあるかどうか。言葉や演出を委ねられる人物がいるかどうか。当事者(固有の能力に紐づく教師データを提供するもの)の生前の意思確認が重要になってくる。まだルール化されていないデリケートな問題が、メディア芸術には常に付帯していることを表現者は忘れてはいけない。現代において神格化した仏像を、まるで友達と占いにでも遊びに行ったかのような軽やかさで分析する『Buddience仏像の顔貌を科学する』は、軽妙さが見事だった。軽いものを重くするのか、重いものを軽くするのか。ソフトのターンでは、題材と演出を考え尽くす必要がある。この講評を読んでいるあなたにとって、文化庁メディア芸術祭がひとつの登竜門として、あるいは時代のショーケースとして機能し続けることを切に願う。

プロフィール
川田 十夢
開発者/AR三兄弟 長男
1976年、熊本県生まれ。99年にミシンメーカーに就職。面接時に書いた「未来の履歴書」の通り、同社ウェブ周辺の全デザインとサーバ設計、全世界で機能する部品発注システム、ミシンとインターネットをつなぐ特許技術発案などをひと通り実現する。09年に独立し、やまだかつてない開発ユニット「AR三兄弟」の長男として活動。主なテレビ出演番組に「笑っていいとも!」「情熱大陸」「課外授業ようこそ先輩」など。近年の活動として、『星にタッチパネル劇場』(東京・六本木ヒルズ)、『ワープする路面電車』(広島)を発表。渋谷でコントライブ『テクノコント』を旗揚げするなど、実空間を拡張することにも乗り出している。毎週金曜日22時00分からラジオ番組「INNOVATION WORLD」(J-WAVE)が絶賛放送中。ジャンルとメディアを横断する、通りすがりの天才。