16回 アート部門 講評

今日の芸術としてのメディア芸術

映像に溢れ、音に溢れ、情報に溢れる私たちの日常を、ダイレクトに受け止め、それを表現へと転化していくことを、現代のメディア芸術は担っていると言えるだろう。アート部門へ寄せられた応募作品は1800点を超え、その膨大な作品数と、そこから立ち上る熱気に驚かされるばかりだった。岡本太郎は1954年刊行の著作『今日の芸術』で、「時代を創造するものは誰か」と投げかけた。今日のメディア芸術祭に集った創造への欲求とそれが結実した造形に、私たちの生きる時代のテクノロジーに触発されて生み出された「今日の芸術」の一端が居並んでいると感じた。
60年代半ばに出現したポータブルなビデオカメラが、一度限り演じられるだけだったパフォーマンスを、記録し繰り返し上映可能でサステイナブルな新たな表現ともなる後押しとなった。今回は初めて「メディアパフォーマンス」の応募ジャンルが設けられ、表現の最も基本的メディアである身体がテクノロジーと掛け合わされていくさまざまな試みが登場している。大賞を受賞した『Pendulum Choir』は、コーラスという歌声によるパフォーマンスが、マシーンの動きをプラスされることで、どこかアニメのような身体、キネティックな要素を加えた新たな表現に昇華した感動的な例だった。
新しいテクノロジーは日常にあって、私たちがより速く、より広くつながっていく恩恵をもたらしてくれる、開かれたものでもある。そのなかでアートは楽しく、優しく、口当たりのよく、皆に受け入れられるものであることが自明のようになってはいないか。それは疑ってかまわない。『今日の芸術』で岡本は言っている。芸術は「きれい」であってはならない、「うまく」あってはいけない、心地よくあってはならない、と。アートが常識や既成概念を疑い、新しい価値観のあり方を探り、何を伝え、何を考えるべきかという問いかけを自省的に促すものであるということを今一度考えてみるべき転機に私たちはあると言える。

プロフィール
神谷 幸江
神奈川県生まれ。ニューミュージアム(ニューヨーク)アソシエイト・キュレーターを経て現職。国内外で展覧会を企画。主なものに「ス・ドホ」「サイモン・スターリング」「小沢剛」「蔡國強」らの個展企画(いずれも広島市現代美術館)、「アートの変温層─アジアの新潮流」(ZKM、カールスルーエ、2007)、「Re:Quest─1970年代以降の日本現代美術」(ソウル大学美術館、2013)などの共同キュレーションがある。新聞、雑誌への寄稿のほか、共著に『Creamier: Contemporary Art in Culture』(Phaidon、2010)。早稲田大学非常勤講師。