25回 アート部門 講評

「作品」の体験と 流行について

文化庁メディア芸術祭のそれぞれの審査委員の専門や趣味は必然的に作品の選定にも反映され、一人の審査委員だけがひとつの作品を高く評価しても、ほかの人がそれを評価しなければ、その作品は選から漏れる。これは残念な点ではあるが、総合的に審査委員の意見はそれほど割れることはなかった。したがって単なる個人的な観点に頼ることなく、メディア芸術の現状に対するグローバルなビジョンを反映した作品が選ばれたと考えられる。
作品の閲覧方法に関して残された問題のひとつは、多くの場合は実物ではなく、映像や文章による記録を通して作品を「体験」することになる。審査委員は作品の記録からその「現実」や「実態」を想像しなければならない。作品の視聴覚記録とアーカイブ化、プレゼンテーションのデザインのクオリティがますます重要になってきているので、アーティストが自分の作品を伝えるためには記録も作品の一部として考えたうえでそのアーカイブ化に真剣に取り組むべきである。
もう一方の問題として、審査委員が注意しなければならないのは、ほかの作品を部分的にでも模倣した作品を正確に見抜くことである。
作家の数が年々増え、通信媒体が効率化するにつれ、流行はますます強く拡大していく。同様なテーマを扱い、同じような技法を使うため、多くの作品が似通ったものになる。結果オリジナリティに欠け、驚きが感じられなくなり、あまりにも似通った形態・形式に隠された相違を探すことが重要になってくる。こういった「模倣」は昔からよくあることではあるが、現代では同時代の作品に関する情報や制作ツールの入手が容易なため、このような流行は残念ながら、アイデア、美学や技法の平均化につながっている。ともあれ文化庁メディア芸術祭はいわゆる「メディアアート」の世界的現況を概観できる素晴らしい場である。この審査に私を招待してくださったことを心より感謝申し上げる。

プロフィール
クリストフ・シャルル
アーティスト/武蔵野美術大学映像学科教授
1964年、フランス、マルセイユ生まれ。現代芸術における論理的な研究を行いながら、内外空間を問わずインスタレーション及びコンサートを行い、それぞれの要素のバランス、独立性及び相互浸透を追求している。