14回 アート部門 講評

膨大に蓄積した“時間”への問い

審査に参加して感じたことは「時間」についてである。それは何百もの大小の缶詰を無言で目の前に置かれたような戸惑いに近いかもしれない。人間は限られた時間を許されて生きている、長さの決まった紐のような存在だ。現在、情報空間の中では作品が累々と増殖し、個に許された時間とは相容れない速度で奔放なる堆積を見せている。何十万曲もの音楽、何万タイトルもの映像。自分の接触の限界を遙かに超えた「紐の長さ」を思う時、ある種の虚無感を感じてしまうのだ。静止画像の場合、動く現実や膨大な情報を、瞬時の理解へと導く合理性が表現の質を支えている。「時間」を要する作品は、そこをどう意識すればいいのだろうか。勿論、時間を短くすればいいという短絡的な問題ではないことは明らかだが、そこにどういう感覚を働かせればいいのだろう。そんな問いが生まれてきたのである。

プロフィール
原 研哉
グラフィックデザイナー
1958年、岡山県生まれ。武蔵野美術大学教授。日本デザインセンター代表。「もの」のデザインと同様に「こと」のデザインを重視して活動中。2002年に無印良品のアドバイザリーボードのメンバーとなり、アートディレクションを開始する。「REDESIGN」や「HAPTIC」など独自の視点で企画した展覧会を通して、日常や人間の諸感覚に潜むデザインの可能性を提起。AGF、JT、KENZOなどの商品デザインのほか、松屋銀座リニューアル、森ビル VI、代官山蔦屋書店VI/サイン計画などを手がける。主著に『デザインのデザイン』(岩波書店、2003)、『日本のデザイン─美意識がつくる未来』(岩波書店、2011)。