24回 アート部門 講評

変化の時代に

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって世界の景色が一変した1年だった。世界中で政治的、社会的問題がSNS上を賑わせ、オンラインは、大多数の人々の日常生活の一部になった。美術館や映画館、そして文化庁メディア芸術祭をはじめとする芸術祭のような文化事業も、オンラインでの活動と向き合わざるを得ない状況となった。このような状況が、応募される作品にどのように影響されるのかという関心を持ちながら、2年目の審査に参加した。作品表現と社会的状況には直接的な因果関係がないとする考え方がある一方で、驚くような作品が、困難で変動の多い時代に誕生することがある。審査を引き受けた大きな理由には、審査の枠をはみ出してしまうような作品、予想もしないエネルギーに出会いたいという思いがある。それらの作品が現在とどのように結びついているかを理解することで、得られることが多くあるからである。残念ながら、今回の応募作品には、前回よりも、審査委員が満場一致で選び、踏み込んで議論できる作品が少なかった。また映像作品が圧倒的に少なかったことは、映像言語がメディアアートの表現の一部として浸透したことによるのだろうか。このような状況で、VRやARなどの技術を作品のコンセプトのなかで適切に用いることで、精度の高い表現へと昇華させている体験型の作品やパフォーマンス作品が受賞作品に多く含まれたことは、今回の特徴的なことである。ただ体験型の作品やパフォーマンスは、同様の条件で体験しているかしていないかで、評価の判断が難しい点があり、審査委員の中でも議論があり、今後検討すべき課題である。審査のなかで、これはアートかどうかという議論が何回かあり、その度に考えさせられることも多かった。メディアのプラットフォームが大きく変化し、さまざまな境界線が揺らぐ不確かな状況のなかで生まれてくる表現の可能性は無限にあり、そのことを見過ごさずに考えていきたい。

プロフィール
田坂 博子
東京都写真美術館学芸員
東京都生まれ。主な企画に「映像をめぐる冒険vol.5 記録は可能か。」(2012−13)、「高谷史郎 明るい部屋」(2013−14) 、「アピチャッポン・ウィーラセタクン 亡霊たち」(2016−17)、「エクスパンデッド・シネマ再考」展(2017)、「[第2−11回]恵比寿映像祭」(2009−19)など。現在、2020年2月開催予定の第12回恵比寿映像祭を準備中。