24回 エンターテインメント部門 講評

デジタルのカンブリア爆発へ

昨年に引き続き今回もエンターテインメント部門の審査委員を担当させていただきました。右も左も分からぬまま、多くの野心的な作品たちを拝見させていただいた昨年に比べ、今回は落ち着いて作品群と対峙できると思っていた矢先、期せずして世界を襲ったコロナ禍。緊急事態宣言、ロックダウン、ニューノーマルなど新たな用語が飛び交う日常となった第24回の文化庁メディア芸術祭。作品の応募も懸念されていましたが、審査を始めてみれば応募総数は昨年の3,566から3,693と微増。ですが、エンターテインメント部門は昨年390から626と驚異的な伸び率。マンガ部門の昨年666から792と合わせ、減少した他部門をカバーしていました。ステイホームやテレワーク、副業の推進、デジタル化やネットワーク環境の必然性と需要。こんな状況下だからこそ楽しみたい、作品を創出したい、誰かを楽しませたいというエンターテインメントの本質を求める人間の本能が、多くの作品応募に結実したのではないのでしょうか。昨年の審査講評ではデジタル化が加速している昨今、各部門の境界もほとんどなくなっているとコメントさせていただきました。期せずしてこのコロナ禍のなかで、デジタルクリエイティブの世代が爆発的に活躍しているのを実感しています。古生代カンブリア紀に現在の動物の門が出そろったというカンブリア爆発。それに匹敵するデジタルクリエイティブの爆発的拡大成長期の到来です。日本では浮世絵、歌舞伎などの流れを汲んで映画、テレビ、マンガ、アニメーション、ゲームと新たな世代のクリエイティブフィールドが誕生してきましたが、その次の新たなフィールドが胎動の時期を超え、その担い手の活躍がついに新たなエンターテインメントとして根付いてきているのです。危機的状況にこそ進化が生まれる。新たなエンターテインメントはジャンル、世代、国境、人種を越えたさらなる文化芸術の未来を開き始めています。

プロフィール
時田 貴司
日本
1966年、神奈川県生まれ。演劇活動のアルバイトとしてファミコン時代よりドット絵でゲーム制作を始める。プランナー、ディレクターを経て、現在はプロデュース業務に従事。代表作は『FINAL FANTASY Ⅳ』、『LIVE A LIVE』、『クロノ・トリガー』、『半熟英雄』シリーズ、『パラサイト・イヴ』、『ナナシ ノ ゲエム』など。現在は株式会社スクウェア・エニックス第二開発事業本部ディビジョン6 プロデューサー、株式会社Tokyo RPG Factory取締役。一般社団法人コンピュータエンターテイメント協会人材育成部会では後進の育成にも参画している。