20回 エンターテインメント部門 講評

見せたい芸術より見たくなる娯楽

今回初めて審査を担当したが、エンターテインメントと部門分けはされているものの、その作品の幅の広さに異種格闘技戦の如き混沌さを感じた。作品を見る基準については、アートと別にされていることを考慮して、大衆に理解できる娯楽であることを第一に考えて拝見した。さらに、日本から発信するにふさわしい際立ったコンセプトを持っていること、見る人に驚きを与える可能性を感じることを念頭に、迷ったときは自分が体験してみたい作品、自分の体験を人に教えたくなる作品を高く評価した。メディア芸術という括りで見ると、やはり技術力の高さを持ちながら、それを感じさせずに当たり前のような印象を与える作品の、技術を無駄遣いしている感覚が好ましい。その結果として受け手に感動を与える、まるで手品を見ているような不思議な体験をしてもらう、良い意味で呆れられるあたりがエンターテインメントの真髄ではないだろうか?そんな意味で人間の知覚に関する2つの受賞作品『Unlimited Corridor』『NO SALT RESTAURANT』は一見して「本当?」と疑いたくなる内容だが、技術に裏打ちされた説得力を持っていた。前者は人間が本能的に身の安全を確保しようとするしくみを逆手に取り、絶対的に信頼できる触覚に頼るよう誘導することで、自己主体感を損なわずに体感を操作している。後者は味覚には偏りがあることを利用し、塩味に限定してはいるものの味覚ディスプレイとして、生活に潤いを与えるという実用性を持たせていることに、大きな意義を感じた。また大賞となった『シン・ゴジラ』については、エンターテインメントにおける日常との接点をフックにした、代替現実的な体験を評価した。ちょうどゴジラの進行エリアが自分の生活圏内と被るため、出かけずして聖地巡礼的体感もあり、無人在来線爆弾には良い意味で呆れさせてもらった。審査は物量的に大変だったが、興味あるたくさんの作品をありがとう。

プロフィール
遠藤 雅伸
ゲームクリエイター/東京工芸大学教授
1980年代よりアーケードゲーム、家庭用ゲーム、PCゲーム、カードゲーム、携帯電話アプリゲーム、スマートフォンアプリゲームなど、あらゆる分野でジャンルにとらわれず多くの作品を制作してきた日本ゲーム作家の草分け。現在はゲームに関する教材の考案などに力を入れ、後進クリエイターの育成に努めるとともに、日本におけるゲーム研究の牽引役として活動している。