16回 エンターテインメント部門 講評

誰もが夢見る根源的・本能的想像に応える作品たち

今回の審査で特に印象に残ったのは、それぞれの作品が「普遍的欲望」や「本能」に根ざしたものに発想の根拠がありながらも、新しい体験や新しいクリエイションへ、その時代の感受性へと昇華していることだ。去年のようなイベントやシェアではなく誰もが夢見ている根源的欲求に忠実に応えていることに驚かされた。
ウェブ、映像、ガジェット、ゲーム、ステージ映像など、それぞれのメディアの特性を活かしながら、テクノロジーの新しさだけに依存するのではなく、表現の成熟へと向かっていることがはっきりと認識できた。大賞の『Perfume "Global Site Project"』(真鍋大度/ MIKIKO /中田ヤスタカ/堀井哲史/木村浩康)はデータのオープン化で多くのクリエイターの創作意欲を刺激し、クリエイター同士が相互に刺激しあって多種多様なダンスビデオがネットに上がるという広がりのある試みが行なわれた。優秀賞『あさっての森』(三木俊一郎)は長年売れっ子CMディレクターとして活躍した監督が私財をかけてつくり出した帰結としての、なんでもアリの完全フリーダム・ムービーに仕上がっている。
優秀賞『勝手に入るゴミ箱』(倉田稔)は究極のゴミ箱のあり方を提示し、優秀賞『水道橋重「KURATAS」』(倉田光吾郎/吉崎航)はロボットパイロットになる夢をかなえ、優秀賞『GRAVITY DAZE /重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』(外山圭一郎[GRAVITY DAZE チーム])は重力操作というきわめて根源的な発想で、誰もが重力から自由になる欲望に駆られるゲームになっている。
このエンターテインメント部門に応募され、入賞した作品群は、表面的な最新のトーンやモードに目を奪われてしまいがちだが、個々の作品をじっくり観ていくと普遍的な夢や欲望に根ざしていることがはっきりとわかる。そこには無意識の集合知的なものや、未来のエンターテインメントの可能性を読み取ることができるのではないか。

プロフィール
寺井 弘典
株式会社ピクス プロデューサー。国内外での受賞作品多数。