第25回 マンガ部門 優秀賞
デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション
浅野 いにお[日本]
作品概要
8月31日、突如、東京に巨大な宇宙船が舞い降り都市を崩壊させた。3年後、東京上空で沈黙する宇宙船「母艦」は日常に溶け込み、女子高生の小山門出、中川凰蘭は青春を謳歌中。だが、そんな日常に徐々に亀裂が入りはじめる。人々に混じる侵略者、崩落していく母艦、混乱を極める国家……「人類終了」に向けてのカウントダウンが始まる。パラレルワールドの存在も明かされ、SFジャンルを横断した構築性の高い世界観が展開されていく。未曽有の災害後ということで東日本大震災と原発事故を、また、東京上空に浮かぶ母艦の存在、自衛隊による円盤との交戦という非日常に緊張感を失った社会は新型コロナウイルスが蔓延する現代をも暗喩しているようだ。フェイクニュースや陰謀論など、現代の闇も風刺している。脇役に至るまで練られた登場人物がドラマ性を高め、崩壊する都市のリアルな描写と、少女たちのあどけなさが際立つビジュアル表現のアンバランスさがシュールな印象を与える。
贈賞理由
宇宙人からの侵略の危機にさらされた東京で、女子高生たちがゲームと恋愛の日常を送っている。おりおり『ドラえもん』のパロディマンガが差し挟まれ、政府批判と社会批評が語られる。タイムスリップと並行世界が描かれ、世界滅亡へのカウントダウンが始まる……何を言っているかわからないと思うが、これだけの要素を詰め込んだうえで重層的な世界観にまとめ上げた作者の力量にまず感服する。「弱い宇宙人による侵略」といえば映画『第9地区』(2009)が連想されるが、作者はこのテーマをさらに批評的に深化させている。タイトルロゴや宇宙人のセリフ表現などに見られる実験精神、破壊シーンのビジュアルショック、作者が自家薬籠中のものとする思春期描写に込められた硬質な叙情性、東日本大震災からコロナ禍に至る世相を一部予見的に描く批評意識、日本における「災間」の風景を私たちに突きつける本作は、優れた社会批評としても十分な読み応えがある。(斎藤 環)