第25回 エンターテインメント部門 ソーシャル・インパクト賞

新宿東口の猫

空間表現

『新宿東口の猫』制作チーム(代表:山本 信一/青山 寛和/大野 哲二/加賀美 正和)[日本]

作品概要

新宿アルタ前広場、クロス新宿ビジョンのための錯視3Dを利用した映像コンテンツ。単なる3D映像としてだけではなく、ランドマークキャラクターとして大きな猫がビルに住んでいるかのように設計され、放映が始まる朝に猫が目覚め、日中に何度も現れ、夜は眠くなって消灯する。高く狭いところが好きな猫の特性や耳やしっぽと猫の感情の連動など、猫の存在感が巧みに演出された。この架空のキャラクターは、キャラクター看板やモニュメントなど、「八百万の神」が日常空間に同居する日本的な独特のユーモアとして海外メディアでも取り上げられた。さらに猫をめぐる二次創作も多く登場し、SNSで拡散。背景のストーリーがSNS上で展開していく現象は、都市の屋外サイネージの枠を越え、ファンが参加してつくる新たなエンターテインメントメディアとしての可能性を示した。VRやパソコンなど閉じた仮想空間ではなく、都市の開かれた屋外ビジョンでバーチャルキャラクターと出会える点も新しい。

贈賞理由

人間は、やっぱり猫が好き、なのだ(笑)。犬でも、鳥でも、恐竜であってもこれだけの注目は集めなかっただろう。この作品は、その、人間にとって特別な「猫」という存在に着目し、ある意味シンプルに世の中の興味へつなげたアイデアが秀逸だし、実際に現場に人を集めた力を見ても、メディアを通じ人々の意識や行動様式に変化を与えた作品に贈られるソーシャル・インパクト賞にふさわしいと思う。正直、看板や置物、ポスターやモニターなどあらゆる暮らしのなかにさまざまなキャラクターが存在する日本において、錯視的な表現方法と時間のデザインによって、キャラと人間の新しい関係値を生み出したのは見事としか言えない。また、あの場所に「住んでいそう」な猫の生態描写、あの角度から見下ろす目や手のすべてが微笑ましく、SNSに拡散したくなる衝動を生み、「会いにいきたい」という行動をつくり出している細かなクリエイティブにも、心からの称賛を贈りたい。(小西 利行)