©2015 Louis-Jack Horton-Stephens

第19回 アート部門 新人賞

Gill & Gill

映像作品

Louis-Jack HORTON-STEPHENS

作品概要

本作は、碑文彫刻家とロック・クライマー、ともに岩石に関わる専門家の姿から、人間と岩石との関係性を讃え探求する、映像によるエッセイであり、直感的な詩的作品である。石に関わる2人の巨匠、近代碑文彫刻の祖Eric GILL(エリック ジル)と近代ボルダリング(岩壁を登るスポーツ)の祖John GILL(ジョン ジル)に注目する。2人のジルについての語りとともに、カメラは21世紀の後継者たち、碑文彫刻師のRichard KINDERSLEY(リチャード キンダースリー)とイギリスの女性クライマーLucy CREAMER(ルーシー クリーマー)を捉える。彫刻家は清閑な工房で石を彫り、研磨し、クライマーは荒々しい風景のなか孤独に岩を登る。対照的に見えるが、じつは驚くほどよく似た熟練の技を見出すことができる。鑿のみは岩を刻み、手は岩肌を摑む。独特なこの対比から、同じ素材に向き合いながら創造性を共有し、問いを解決していくさまが記録されている。

贈賞理由

例年にまして「映画」作品の応募が目立ち、メディア芸術祭がまるで映画祭のような性格を有することへの審査委員のとまどいを見事に吹き飛ばす秀作として評価されたのが本作であり、681点の応募があった映像作品のなかから唯一の受賞となったショート・フィルムである。レター・カーバーと呼ばれる世界的に有名な文字の彫刻師とロッククライマーという優れた技術を有する2人を主人公に据え、われわれ人類に非常に近しい存在である「石」をテーマに、「ビジュアル・エッセイ」としてつづってみせる。練られたアングルで捉えられたこれらのイメージが、効果的な編集でつながれ、そして心に響くナレーションによって深度の強い作品として成立している。(植松 由佳)