©︎ Satoru Noda / Shueisha

第24回 マンガ部門 ソーシャル・インパクト賞

ゴールデンカムイ

野⽥ サトル[日本]

作品概要

明治末期、アイヌ人が隠したという金塊をめぐり、北海道、樺太、ロシアで、さまざまな男たちが暗躍するサバイバルバトル。日露戦争の死線を潜り抜けた「不死身の杉元」の異名を持つ退役軍人・杉元は、幼馴染の目を治療するために金塊を探す過程でアイヌの少女アシㇼパと出会う。彼女の父こそ金塊の在処を知る人物であり、謎を解き金塊を探す2人の旅が始まる。同時に鶴見中尉率いる第七師団や、戊辰戦争で死んだはずの土方歳三らも金塊を狙い動き出していた。著者の曽祖父が屯田兵として日露戦争に出兵し、203高地で戦ったという話から着想されたという。歴史冒険譚にとどまらず、雄大な北の地の自然やそこでの処世術から、アイヌの文化や風習、各地の郷土料理などが、杉元とアシㇼパの心の通い合いとともに細やかに描かれ、物語に厚みをもたらしている。登場人物は個性的に造形され、テンポのよいギャグとともにエンターテインメント性も高い。

贈賞理由

フィクションのなかに「真実」を描いていこうとするうえで、人間のなかにある「許容、共感する心」が時としてギャグの表現におり込められる。厳しさや残酷さ、悲劇を主軸に据えながら、人間の持つ「笑いによる共感」は人の心と心を近づけ、同じギャグを理解しあうときに、他者との一体感が生まれる。作品中の主人公・杉元はギャグとは正反対の立ち位置の設定だが、ほかの殺し屋やアイヌの少女と出会い命をかけて走り抜けていく姿をギャグを混ぜて描く。そのギリギリのところでアイヌ文化を描こうとするチャレンジはむしろその理解をより深め、プラスの感動を呼び起こしている。そしてプラスの感動は「愛」と「行動力」を促す。民族文化に対し「もっと知りたい」という欲求が経済活動も回転させ肯定的に広がっていく。理想的な関係だ。作者と監修の中川裕氏のタッグの力がなせる技だろう。マンガが文化として貢献できることを実際に体現して見せた素晴らしい例と言える。(島本 和彦)