©︎ Aki Mochida / Shodensha FEEL comics

第25回 マンガ部門 大賞

ゴールデンラズベリー

持田 あき[日本]

作品概要

高学歴・高収入・高身長なハイスペック青年、北方啓介。しかしその実態は転職を24回繰り返した「仕事が続かない男」32歳。芸能プロダクションに入社し意気込むが、事務所が期待をかける新人にデビュー当日に逃げられ窮地に。そんなとき出会ったのが、男と付き合っては別れを繰り返す「恋が続かない女」吉川塁。啓介は何事にも動じない姿勢と瞳の強さに魅入られ彼女をスカウト。本当は「死ぬほどおもしろい仕事がしてみたい」と望む啓介と、一度でいいから誰かに本気で選ばれたかった塁。初めて真剣に取り組めるチャンスに出会った2人は、デビューという目標を共有し進んでいく。テンポ良い展開、恋愛関係になりそうでならない2人のギリギリの関係性も魅力的で、作者の持ち味である読む者の心に残るセリフまわしも冴える。華やかな芸能界が舞台だが、自分でキャリアを築かなければならない就職事情のなか陥る迷いや不安、人間関係が希薄になり真に自分だけを必要としてくれる人を求めずにいられない孤独感など、現代の若者が抱える不安をさりげなく織り込んでいる。プロモーション活動など芸能プロの仕事、撮影現場などの様子も描かれ、2人のサクセスストーリーにリアリティを添える。

贈賞理由

本作はキャラクターの魅力がずば抜けていた。強いメンタリティと常識にとらわれない感覚を持つヒロイン吉川塁の、達観したようなそれでいて真摯な瞳は読む者の心を射抜く。恵まれた容貌から発せられるセリフは自虐でも自惚れでもなく、新鮮で清々しい。彼女に魅了される器用貧乏のマネージャーとのやりとりは、従来のジェンダーの役割を超えたところでの恋愛の新しい形を提示してくれる。大賞に推した理由としては、こうしたキャラによる作品の圧倒的な勢いだ。テンポの良さと隙のないハッタリ、それに付随する高い画力。乗り心地の良いジェットコースターに、審査をしながらワクワクが止まらなかった。芸能界という華やかな業界ものにキラキラした美麗な男女、そこに「今時の女性マンガ」という判を押そうとする我々の価値観は一読で押し流されるだろう。本作が新しい女性マンガの先駆となることによる、女性マンガジャンル全体の再認識と幕開けの期待も込めて大賞の授与とする。(おざわ ゆき)