©Akiko HIGASHIMURA / SHUEISHA

第19回 マンガ部門 大賞

かくかくしかじか

東村 アキコ

作品概要

少女マンガ家を夢見ていた頃から、夢を叶えてマンガ家になるまでとその後の半生を題材にした自伝的作品。「自分は絵がうまい」とうぬぼれていた高校3年生の林明子(はやしあきこ)は、美術大学入学を志し、海の近くにある美術教室に通うこととなる。そこで出会った絵画教師・日高健三(ひだかけんぞう)は、初対面で絵画教師とは思えない強烈なインパクトを放ち、明子が描いたデッサン作品を見るなり、竹刀を振りかざして「下手くそ」と言い切った。そこから日高先生と明子、2人の物語が始まっていく─。作者の人生に大きな影響を与えた恩師との数々の思い出とともに、自らの高校生活から大学での生活、そしてマンガ家デビューへの道のりを描く。マンガを「描く」ことへの愛が、個性的なキャラクターたちとさまざまなエピソードを通して表現され、笑いと涙の要素が随所に盛り込まれた作品。

贈賞理由

東村アキコは「自分のこと」を題材に描く作家である。周囲の人をキャラとして「どう」描くのか、経験をマンガとして「どう」おもしろく描くのかに心を砕き、膨大な作品を生みだしてきた。だが本作における(そして作者の半生における)最重要人物である恩師・日高は、これまで一度も描かれていない。長いあいだ作者の奥底で大切に寝かされてきたことで、また冒頭で述べた作家活動の蓄積によって、「個人的な経験」は、誰もが同じ痛みを覚える「普遍的な物語」へと昇華された。日高が幾度も口にする「描け」というセリフは、創作者はもちろん、すべての働く人への「手を動かさなければ何も生みだせないのだ」という、作者の実感を伴ったエールである。「マンガ大賞2015」受賞などすでに評価を受けているが、完結巻が審査委員一同の胸を打ち、大賞贈賞に至った。完結後、初の歴史ものや探偵ものに着手するなど攻めの姿勢を崩さない東村アキコ。本作はその作家人生の節目となるはずだ。
(門倉 紫麻)