©おざわゆき

第16回 マンガ部門 新人賞

凍りの掌 シベリア抑留記

おざわ ゆき

作品概要

著者の実父が体験したシベリア抑留の記憶を核に、その他周辺に取材を重ね、2年半かけて全3巻の同人誌として刊行され、2008年に完結した作品。2012年7月、再編集版が新たに一般書として刊行された。すでに第二次世界大戦が終わっていたにもかかわらず、労働力としてシベリアに送られた日本兵たちの数は、一説では76万人を超えると言われる。抑留者たちは極寒の地で満足な食料も与えられず、重労働を課せられ、6万人以上が亡くなった。作品通して描かれる、極限状況を生き抜こうとする人間の慟哭が胸に響く。

贈賞理由

「あまりにも理不尽な」体験を負わされた多くの人。それを知っていながら行動を起こせない、さらに多くの人。それらの人々が居る限り、この作品は不滅の輝きを放ち続ける。「あまり語りたくない」という父の心を謙虚に受け止めつつ、それでも「この世に残す意義がある」と確信し、聞き取り取材し、ひたむきに描き綴り、「コミティア」という自主制作漫画誌展示即売会を通して発表された。この実娘の250ページの作品は、表面に描かれた内容以上の重み、深みをわれわれに突きつけ、「目をそらしてはならない」作品に結晶した。