©︎ Shima Shinya 2021

第25回 マンガ部門 新人賞

ロスト・ラッド・ロンドン

シマ・シンヤ[日本]

作品概要

ロンドン市長が地下鉄で何者かに殺害された。偶然同じ電車に乗り合わせたアジア系の大学生アル・アドリーは、2日後、コートのポケットに血の付いたナイフを発見する。過去の冤罪事件を引きずる老刑事エリスはアルの言葉を信じ共闘することに。容疑者と刑事がバディを組む新感覚クライム・サスペンス。派手な演出も凝った謎解きもないシンプルなストーリーが、2人のハードボイルド風の軽妙な掛け合いの魅力を際立たせる。陰影でコントラストを利かせた画風もスタイリッシュだが、2人のほか、過去の冤罪事件で自殺した容疑者、アルのバイト先の中華料理店店主、エリスの有色人種である同僚たちの声も拾われ、多様な出自の人々が生活するロンドンの一面を描き出している。

贈賞理由

バンドデシネのスタイルを「マンガ」寄りに昇華させた絵柄がすばらしい。余白と行間をひろくとったセリフ回しのセンスが抜群である。再読するたびに新たな細部に気づかされるような緻密な描写と、成熟したテンポの語り口。人種問題を背景に配しつつも、それを控え目な通奏低音にとどめておくような、新人らしからぬ配慮も効いている。作風はすでに完成形に近い気もするが、この作者の長編連載をぜひ読んでみたいという期待感から新人賞に相応しいと考えた。(斎藤 環)