第24回 アニメーション部門 優秀賞
マロナの幻想的な物語り
劇場アニメーション
アンカ・ダミアン[ルーマニア]
作品概要
血統書つきで差別主義者の父犬と、元のら犬の混血ながら美しい母とのあいだに生まれた主人公の犬は、同時に生まれた9匹の末っ子として「ナイン」と呼ばれていた。ハート型の鼻を持つこの小さな犬は、生まれてすぐ家族から引き離され、曲芸師マノーレのもとで「アナ」と名づけられ幸せな日々を過ごす。しかし、自分がいることで彼の将来を犠牲にしてしまうのではと考え、そのもとを去ったアナは、次に建設現場で働くイシュトヴァンに飼われ「サラ」と名づけられる。だが、その妻と折り合いがつかず、結局は逃げ出すことに。次にサラは、出会った少⼥ソランジュに「マロナ」と名づけられ、新たな絆を築こうとする。人間味あふれる登場人物たちとの交流を通じて、マロナが成長し、小さな幸せを見つけていくさまを描く。手描きと3DCGを融合させた変幻自在で軽やかな映像と、1匹の犬の視点で描かれる「自分にとって一番大切なこととは何か」という問いが、印象深い視聴体験を生む。
贈賞理由
犬の視覚は動体視力が抜群に良いぶん、人間ほどの色が見えていないと言われているが、白黒やグレーになっているのかといえばそれは犬自身に聞かないとわからない。本作品は、これらを大胆に映像表現した実験の宝庫だ。手描きやCGが駆使されたローアングルの背景動画による限定的かつ動的な視界や、飛び込んでくる不思議な色づかい、手描きだったりデジタルだったりが混在する人間の人情と非情さの奇抜な表現など、視覚と感覚で犬の一生を90分でバーチャル体験させるような作品かと思いきや、どことなく我々人間が幼い頃に体験した記憶も引き出されているような気がした。人間の都合に左右された1匹の犬の理不尽とも取れる短い一生の物語だが、ごくわずかな希望を最大限の喜びとできるその純粋さは、本来は哀しいはずなのに「わんちゃん可哀想」という感情にはならず、むしろ我々人間のほうが大切なものをなくしてしまったのではないかとも感じさせられる。(水﨑 淳平)