第25回 エンターテインメント部門 大賞
浦沢直樹の漫勉neo 〜安彦良和〜
テレビ番組
上田 勝巳/倉本 美津留/内田 愛美/塚田 努/丸山 恵美[日本]
作品概要
マンガ家たちの仕事場、特にその手元にカメラが密着し、「マンガ」の技術を伝えるNHK Eテレのドキュメンタリー番組。日本を代表するマンガ家たちの手元の動きを丁寧に捉えるべく、複数台のカメラを用いて記録する。その映像を見ながら、自らも第一線で活躍するマンガ家・浦沢直樹がゲストのマンガ家とともに制作過程についてトークを繰り広げ、本人が気付いていない技術やクセを同業者ならではの視点から指摘し、魅力を引き出していく。本作で取り上げたのはマンガとアニメーション、2つの領域で活躍してきた安彦良和。『宇宙戦艦ヤマト』(1974-75)では絵コンテ、原画を務めたほか、『機動戦士ガンダム』(1979-80)ではキャラクターデザイン、作画監督に携わり、マンガ作品としては1986年に劇場アニメ化された『アリオン』(徳間書店、1979-84)などを発表。そんな安彦が最後の長編作品として取り組む『乾と巽 ―ザバイカル戦記―』(講談社、2018-)の執筆の様子を、3日間にわたり4台の定点カメラで切り取った。ネームは描かずに下描きを始める、俯瞰の複雑な構図をアタリなしで描く、人物を描く際は眉毛から、ペン入れは筆で行うなどの通常のマンガ制作とはかけ離れた超絶技巧が次々と明らかにされた。
贈賞理由
絶妙な筆致と描写力で日本を代表するマンガ家の浦沢直樹氏。その浦沢氏がプレゼンターを務め、世代やジャンルを超えた数々のマンガ家の執筆風景を堪能できるドキュメンタリー。2014年から長くシーズンを重ねているこの番組は、2021年6月9日放送回で、アニメーターとしても一時代を築いた安彦良和氏を迎える。この回を見て言葉を失った。雪深い夜のアクションシーン。飛び散る雪を下描きなしで、闇夜のベタを塗っていき現出させるのだ。長くアニメーションを制作してきた安彦氏の頭の中では、映像化され、マンガとして最適なコマが選択され、描写されているのであろう。マンガ家の執筆を複数のカメラで録画し、原稿、手元、表情など多彩な視点からその技法に迫る。その模様を浦沢氏と登場するマンガ家が視聴しながら、その技をさらに深く掘り下げていく。多くのマンガ家という神々の業に密着してきた本番組。この回は大賞に相応しいまさに神回である。(時田 貴司)