© 山本 直樹/講談社

第14回 マンガ部門 優秀賞

レッド

ストーリーマンガ

山本 直樹

作品概要

物語の舞台は、1969年から72年にかけての日本。ベトナム戦争や公害問題など、高度経済成長のもたらした社会の歪みを背景として、当たり前のように学生運動に参加していった普通の若者たちが、やがて「矛盾に満ちた国家体制を打倒する」という急進的な革命運動に身を投じていくさまと、その行き着く先をクールに描き出す。若き革命家たちの、青春群像劇である。

贈賞理由

虚構のリアリティーに込められた「今」への問い掛け
戦後の社会運動史に今も大きな影を落とす連合赤軍事件。理想に燃え、社会の変革と人間の解放を目指したはずの若者たちは、なぜ同志殺しという暗闇に落ち込んで行ったのか。山本直樹「レッド」はこの歴史的事件を、作者の主観をあえて排し、登場人物たちの日常を淡々と描くことで、いつのまにか非日常との境界がゆらいで行く不可解さをそのまま提示する。事件をイデオロギー的に読み解き裁断するのでも、逆に理解を示そうとするのでもなく、問いを問いのまま「革命戦争を知らない子供たち」である今の読者に投げ掛けている。
作者はこれまでエロスを切り口に、若者の日常に潜む虚無を鋭く突く作品で評価を得てきた。今作はその作風を一転、資料に克明に当たりつつ、ドキュメンタリーともフィクションとも異なるマンガならではの虚構のリアリティーを組み立てて見せた。